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カツ、コツコツ、コツ
倉庫に不釣り合いなヒール音が聞こえて作業を止め、音の主が本社の社員証をぶら下げていることに気付いて仕事に戻る。これは荒れるなと私は小さく息を吐いてから、ヒール音を従えて倉庫内を一周した。
「あれ、やる気あると思います? ないですよね、絶対」
十三時を過ぎて休憩に入った私は、先に休みに入っていた同僚の叫びと共に椅子に座る。あれ――とはもちろんヒールを履いた本社から来た女性のことだろう。
「あれで商品のピッキング作業できるんですかね。人手不足を訴えて、ようやく助っ人が来てくれたと思ってたのに」
「まーまー。もしかしたら、午後からは靴を履き替えるのかもしれないよ」
急に退職者が三人も出た職場で文句が出るのは当然だろう。けれど、やり玉に上げられている女性はマネージャーとランチに出掛けている。それをみんな知っていての愚痴なので、直接文句を言うような切羽詰まった状況でもない。
本社勤務で素敵なハイヒールを履きこなし、上司からランチに誘われる女性への陰口など嫉妬も同然だ。自分が彼女より格下だと自ら叫ぶ同僚に嘆息して、私は会話に混じることなく菓子パンを噛りながらじっとスマホをみつめる。
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