東の空は赤かったか

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「浅井さんもさ、指導係なんてかわいそうだね」  菓子パンの袋を丸めるためスマホから目を離した私に話がむく。 「そんなことないですよ。彼女、可愛いですし」 「えっー、何それ。おじさん臭ーい」  かわいそうだと言った者はケラケラと笑うが、顔はほんの少し歪んでいて不快さを隠しきれていない。面倒なことを避けるために同意してもよかったのだが、「大変だね」ではなく「かわいそう」と言ってきたのに敵意を感じて言い返してしまった。 「ただいま戻りました~」  朗らかな声に、休憩室が静まる。それは、あなたのことを話していましたというあからさまな感じがして気まずい。 「おかえりなさい」  大分遅れたタイミングではあるが、一番無難な言葉をみつけて声を出せば、みんなそれに続く。 「午後からもよろしくお願いします。あっ、靴を履き替えなきゃ」 「どうぞ」  空いている席がなかったので譲ってあげると、後ろにいたマネージャーが大袈裟に拍手した。
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