共感覚と無色透明

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音や人に、色がついて見えるなんて綺麗だという人がいた。 そう思う人の方が多いようだった。 そんなわけないだろ。 人の多いところに行けば沢山の色がごちゃごちゃに混ざり合って汚くみえた。 一度音楽が流れればたちまち色が頭から離れずにうなされた。 今自分が見ているものさえ、本当の色なのか、本当に存在するものなのかわからなくなることもあった。そんな感覚に陥るたびに手の甲を噛んだ。 その傷を隠すように人を避け、BGMの流れる街に出ない、そんな生活をしている。 もちろん例外もいる。 年の離れた妹のアンジュだ。 彼女はほんのり淡いピンク色をしている。 小さい頃から慣れ親しんでいるからこの色には心安らぐ。 そのほか自分の部屋もなるべく無彩色のもので揃えた。 アンジュとそこは自分にとってほんの少しの安らぎだった。 ただ生きる上で普通の生活をしなければならない。 重い腰を上げて暫くぶりの買い物に行く。 もちろんアンジュも付いてくる。 地面しか見られない俺の手を引き彼女は道を進んだ。 地面を見ているだけでは危ないので多少は人にぶつからないか配慮する。 前を行き交う多くの足。大体の種族が下を見ているだけでわかるから便利だ。 人、獣、そのハーフ、機械、その他人外の何か。 ふらふらとそれらを避けるように歩いていたその時だった。 「痛っ…?」 肩にズドンと重い衝撃がくる。 慌てて視線を上に行かせると何もない。 しかし確かに誰かにぶつかったような衝撃があった。 急いで辺りを見回すが人外の犯罪者が一人で歩いているだけだ。 …一人で? 「アンジュ、あの犯罪者の近く誰かいるのか?」 「二人いるよ。人外警察の腕章つけてる人。」 よく見れば確かに二色の色を持った女性(?)と思しき人はいた。 見方によっては男性に見えるが。 赤と青。 対照的な色の組み合わせでなんだかチグハグに見えた。 ただアンジュの言う二人目の人が見つからない。 どこに、いるんだ。 多種の色が混ざり合って気持ち悪いにも関わらず夢中でその人影を探した。 理由はわからない。ただ本能のままに。 ドンッとさっきよりは軽い衝撃がして再度それに触れることができた。 警察官の防護服で覆われているが微かな人の温もりがあった。 それがその人の手だとわかるのに数秒を要した。 「何?」 一言だけその人が言葉を発した。 すると何故かその人の姿を認識することができた。 青。 背の高い警官。 さっきまでは無色透明だったはずだ。 偶然か?それとも多重人格?または別人だったか? そんな考えが脳を回る。 だが考えるより先に動いてしまう癖がある。 「あの、もし良ければ、友達になってくれませんか?」 「なんで?」 緑。 それがはじめての 無色で赤で橙で黄で黄緑で緑で青で紫の 不思議な人との出会いだった。
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