序章 召喚勇者

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序章 召喚勇者

第一話 召喚勇者  1つの戦いが終わろうとしていた。  人族の悲願。”魔物の王”討伐が実現しようとしていた。 「ユウキ!どうだ」 「あと、5000!1割。リチャードの一撃で削れる」 「フェルテ!俺に補助を!」 「解った!”根源なる力よ。汝に力を”リチャード!!」 「おぉぉぉぉぉぉ!!!」  聖剣を持つサトシがリチャードの後に続く、”魔物の王”にダメージを与えられるようにできるのは、聖剣を使える勇者だけだ。 ”うぉぉぉぉ!!!”  強化されたリチャードの攻撃で、”魔物の王”を守っていた結界が砕ける。新たな結界をはられないように、バックアップが結界魔法を阻害する魔法を発動する。 「サトシ!魔王の左肩を狙え!魔核がある!」 「サンキュ!ユウキ!皆、決めるぞ!」 「「「「「おぉぉぉ!!!!」」」」」  サトシが、聖剣を”魔物の王”の左肩に差し込む。  ”魔物の王”が絶叫を上げる。サトシは、そのまま聖剣を押し込む。  サトシの一撃で、魔核が弾ける。  だが、まだ魔王は生きている。 「ユウキ!」 「魔核はない!再生スキルが発動している!再生する前に、倒すぞ!魔核が再生する前なら、ダメージが通る!」  ユウキの的確な指示で、パーティーのメンバーは武器や魔法で攻撃を始める。  魔核を砕かれた”魔物の王”は、それでも戦い続けた。負けは、消滅を意味している。”王”としての自分が消滅してしまうと、まとまり始めていた”魔物”がまた各地に散らばってしまう。魔物を守るために、そして人類と敵対しないためにも、自分が消滅するわけにはいかない。 『異世界より召喚された者たちよ・・・。我が貴様らに何をした!』 「魔物の王よ!滅びろ!」 『貴様ら!神に誑かせられたか!!』 「魔王よ!滅びろ!」  一斉攻撃が、”魔物の王”に被弾する。 『神よ!我が滅びれば・・・人類も・・・。解っているのか・・・』  ”魔物の王”は、神への怨嗟の言葉を残して、聖剣にえぐられた左肩から徐々に崩れた。 『勇者たちよ。神に騙されるな・・・』 「うるせえよ。この世界の王族にも、神殿のお偉いさんも、神も俺たちは信じていない!俺たちは、俺たちの為に、お前(魔王)を倒す道を選んだ!」 『・・・。そうか・・・。勇者たちの進む道・・・』  勇者たちが、この世界に召喚されてから、7年の月日と、数多くの犠牲が必要だった。  しかし、勇者たちは”ここ”に目的を達成した。  この世界の人族の悲願ではなく、勇者たちの目的である”自分の世界に帰る”ことを叶えるために・・・。 「ユウキ!有ったか?」  ユウキと呼ばれた青年は、”魔物の王”が崩れた場所から一つの珠を見つけ出す。  ”魔物の王”が持っていた剣を、サトシと呼ばれた青年に投げる。受け取ったサトシは、剣を放り投げてから、聖剣で砕く。剣が砕く音が響き渡る。剣の柄をサトシは拾い上げてユウキに投げ返す。ユウキは、柄を受け取ってから持っていた袋にしまう。同じように、”魔物の王”が持っていた防具に付いているオーブを外して袋に入れる。最後に、”魔物の王”の頭上に生えていた角を拾い上げてから、仲間たちに放り投げる。仲間たちは順番に、角を見たり触ったりしている。 「あった。情報は間違っていなかった。”時空魔法のオーブ”だ」 「やったな!さて・・・」  聖剣を持つ、サトシが皆を見回す。  全員が、召喚された勇者だ。召喚されたときには、350名を越えていた。世界中から集められた。年齢は13歳から15歳の男女で、孤児だという共通点以外には共通しているものは何もなかった。  異世界召喚の定番というべき、言語解釈以外にも各人に適したスキルが芽生えた。  勇者たちは、最初からまとまっていたわけではない。教会や各国の王族の思想に染まった者も、多く存在していた。勇者たちは、大人の思惑に乗って、内部分裂を繰り返した。魔物側に寝返る者も出てきた。  ”俺THUEEEEEE”と勘違いして訓練を受けずに、魔物に突撃して殺された勇者も存在した。  心を病んで自ら死を選んだ者も居る。  そして、最初の1ヶ月で359名居た、勇者は322名まで数を減らした。  一年後には、勇者たちは248名まで減っていた。友が死んだことで、仲間が目の前で魔物に食い殺されたことで、勇者同士の内部分裂で・・・。理由は様々だが、勇者たちはこのままでは生き残れないと考え団結することを考えた。  勇者たちの団結を恐れたのは、”魔物の王”ではなかった。人族では勝てなかった、魔物たちを駆逐する勇者たちを、民衆は絶叫と称賛で迎えた。異世界から召喚された勇者。団結して魔物を駆逐する。民衆だけではなく、各国の王族や、この世界の唯一絶対神を崇める教会としても、誇らしい結果になる・・・。はずであった。  民衆に人気があり、武力を持つ者たちが団結し始めている。  王たちは、自らの地位を奪われる恐怖を感じた。そして、教会も同じだ。民衆は、回復魔法で治す勇者たちを”聖女”や”聖者”として持て囃した。教会は、神を信じることで、回復魔法が使えると宣伝していた。しかし、異世界からきた勇者が教会の司祭たちが使う回復魔法よりも強力な回復魔法を使ってみせた。教会の特に上層部は勇者の中に居る”聖女”や”聖者”が民衆に施しをするのを恐れた。  各国の王族は教会と協力して、勇者たちが団結するのを阻止した。欲を刺激して、分断を図った。  勇者たちは、異世界で過ごした年月を加えても、中学生か高校生だ。生き馬の目を抜くような政治闘争、派閥闘争を繰り返している王族や貴族や教会関係者に叶うはずもなく、分断された。  2年たって、勇者たちは小集団で行動するようになった。  その中でも、聖剣を召喚できる日本人のサトシは勇者の中の勇者と思われるようになり、リーダーになることが多くなっていった。徐々にメンバーが固定され、サトシが率いるグループは、日本人とアメリカ人とドイツ人で構成されている。バックアップ(後方支援)の勇者を含めても、29名と数は少ないが、最強のチームだと思われていた。実際に、撃破した魔物の数だけではなく、魔物の王に仕える将軍級を初めて討伐したのも、サトシのチームだ。  各国や教会が勇者たちを懐柔し自らの懐に入れ始めていた。  サトシたちのチームは、一つの小国を選んで、身を寄せることになった。他の勇者たちは、サトシたちの決断を笑った。  サトシたちが選んだ小国は、魔物が住まう領域に近く、一番近い人族の国との境には高い山脈が横たわって、細い一本の谷を進むしか無い。このときには、サトシたちは同じ勇者たちも敵とみなしていた。勇者たちの多くは、”神の雫”という麻薬に犯されている事実をユウキが掴んできた。  小国(レナート王国)は、”神に見捨てられた国”と呼ばれていた。サトシたちは、2年の月日を使って、小国の守りを固めた。守りだけではなく、食糧事情や、衛生状態を改善した。 「ユウキ。お前が、オーブを使え。お前が・・・。可能性が高い」  ユウキは、サトシの言葉に驚いた。オーブは一度使ってしまえば消えてしまう。そして、適性がなければ使えない。 「でも、俺は・・・」 「俺は、このチームのリーダーをやっているが、このチームの要はお前だ。ユウキ!皆も同じ考えだ。それに、俺は・・・」  ユウキは、サトシの言葉を聞いて、周りを見る。  全員が、ユウキを見て頷いている。 「わかった」  ユウキは、オーブを手にしっかりと持つ。  そして、オーブに自分の魔力を流し込む。  灰色をしていたオーブは、緑色に輝き出す。オーブが、適性を認めた証拠だ。徐々に光が強くなる。ユウキは、魔力を流し込み続ける。ここからはオーブとの我慢比べだ。上位のオーブになると、必要な魔力量が変わってくる。満たないと、オーブの取り込みに失敗する。  ユウキの限界ギリギリまでの魔力を注いだところで、オーブは激しく光、明滅し始めた。  そして、数秒間の明滅の後で、激しく光った。  ユウキは、自分の手からオーブの重みがなくなったと認識した。  そして、頭の中に新しいスキルが芽生えたことを知らせるメッセージ(天使の声)を受け取った。 『時空転移』  ユウキたち勇者が欲しくて、欲しくて探していたスキルだ。 「ユウキ!」「ユウキ!」「ユウキ!」  勇者たちが駆け寄ってくる。  ユウキを心配そうに見つめる55の瞳。 「時空魔法だ。時間と空間を越えて俺が認識できる、”場所”に移動できる。人数の制限は・・・。」  皆が、ユウキの次の言葉を待つ。 「ない。正確には、魔力次第だ。距離と時間と人数に比例するようだ」  皆が、手を合せて喜ぶ。戦い疲れている状態だが、皆が望んだ答えだ。  こうして、サトシたち召喚された勇者たちは、故郷に帰るための方法を手に入れた。
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