第二章 帰還勇者の事情

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第十三話 見世物  ポーションの確認を終えて、記者会見をしていた会場に戻ってきたら、記者の数が半分になっていた。ポーションの確認から外された最前列に陣取っていた記者たちが、帰ってしまっていた。機材を抱えていた者も半数が帰っているので、会場で待っている者の数も減ってしまっていた。  司会が状況を説明しているが、それでも詰め寄る者は存在していた。  ”弾かれた”記者たちだ。残っていた者たちには、佐川から動画が送られることで落ち着いた。佐川の研究資料が付いているので、記事にするのには十分な資料になる。  森田と14番にも群がった。傷の具合を聞いている。  二人は、曖昧な返答をしているが、ユウキからの”答え”は何も出さないことになっている。二人の率直な意見を述べるようにだけお願いしていた。  森下の提案で、休憩を挟むことになった。  今川が確認して、会場の時間を延長も決まった。記者たちは、煩い”最前列”が居なくなって喜んでいる。 「ユウキ!(スペイン語)ポーションは残っていないのか?」 「俺たちが使う分として残しておきたい。どうして?」 「(スペイン語)ミスター佐川は信頼しているが、別の国の研究機関での検証が必要だとは思わないか?」  14番は、興奮してユウキに詰め寄る。  ようするに、自分の国でもポーションを調べさせるということだ。  ユウキが周りを見ると、同じように考えているのだろう者たちが居る。  ユウキは、息を吐き出してから、サトシたちを見るが、サトシたちは、ユウキの好きにしろと伝えてきた。 「佐川さん。今川さん。森下さん」  ユウキは、この場で信頼できる3人の大人を呼んだ。 「なんだ?」  佐川がユウキの近くに居たために、最初に反応した。 「海外の記者たちが、母国でもポーションの検証をしたいと言っているのです」 「当然じゃな」 「え?」 「なんだ?」 「いえ、佐川さんが反対されると思っていたので・・・」 「おぬしが、儂をどう見ているのかわからんが、一つの研究施設だけの結論に、なんの意味がある。複数で試験を行って、検証した物に意味がある。儂は賛成じゃ。できれば、どこの研究所か教えてもらいたい。検証結果を突き合わせれば、違う見え方がする可能性がある。それに、儂が考えない発見があるかもしれない」 「わかりました。えぇと、今川さんも森下さんも、大丈夫ですか?」  二人も、ユウキが大丈夫なら問題はないと宣言した。 「えぇと、14番さん」 「アロンソだ。偉大なF1ドライバーと同じとおぼえてくれ」 「え?あっはい。それで、アロンソさん。今の佐川さんの話で、依頼する研究施設の情報は開示してくれますか?」 「問題はない。できれば、ミスター佐川の意見も聞きたい」  ユウキは、佐川を見る。佐川は、頷いているので、問題は無いのだろう。 「アロンソさん。先に、希望する記者を募りたいのですが・・・?提供できるポーションの数にも影響します」 「それはそうだな」  アロンソは、記者たちを集めて話を始める。  森下はサポートに向かった。 「ユウキくん」 「解っていますよ。佐川さんには、中級ポーションを渡します」 「うんうん。それで、儂の経験から、4本のポーションがあると、検証が楽にできる」 「4本ですか?」 「一度、瓶の蓋を空けてしまうと、もう検証として正しいとは限らない。しかし、試さないと納得が出来ない」 「はぁ」 「それで、一本は、実験で使う。もう一本は、成分分析にまわす。そして、もう一本は、成分分析の結果の追試用だ」 「もう一本は?」 「予備だ」  ユウキは、佐川の目を覗き込むように見る。  ”嘘ではないが、本当でもない”という意識を読み取った。実際には、読み取った感じでは、”予備”なのは間違い無いが、”目的”は違うように感じた。仲間に覗かせればもう少しだけ深い感情が読み取れる可能性もある。だが、ユウキは佐川を信じることに決めた。 「まぁわかりました。ようするに、佐川さんは、初級ポーションと中級ポーションを4本ずつ所望しているということですね」 「そうだ。できるか?」 「まぁなんとかしましょう」  佐川が満面の笑みで、ユウキの背中を叩きながら頼むと言ってから、海外の記者が話し合っている輪に加わった。 『フェリア。ニコレッタ。ポーションを作ったよな?初級を150本と中級を80本ほど俺に送ってくれ』 『了解』『ユウキ。上級は?10本くらいならあるよ?』  ニコレッタからの提案をユウキは、必要ないと断った。  中級でも破格の性能なのだ、上級ではどうなるかわからない。部位欠損が治るような物は、フィファーナでも珍しかった。作られる者は限られていた。 「ユウキ!」  アロンソが戻ってきた。 「決まったのか?」 「決まった。やはり、全ての国で検証するのが正しい行為だろうとなった」 「そうなのか、結局、何カ国だ?」  アロンソが、ユウキに国を示していく。  ・イギリス・フィンランド・オランダ・メキシコ・スペイン・オーストラリア・カナダ・ドイツ・フランス・ロシア・イタリア 「11カ国?いや、佐川さんが居るから12カ国か・・・・」 「無理か?」  アロンソが少しだけ心配そうな表情で、ユウキからの返事を待つ。 「そうですね。俺たちが怪我や病気をしたときのために取っておこうと思った物ですし・・・」 「そうか、ユウキ。20分・・・。いや、10分の時間をくれ」 「え?いいですよ?」 「ありがとう」  それだけ、アロンソはまた記者の集まっている場所に戻った。  記者たちは、アロンソの話を受けて、一斉にスマホで誰かに連絡を取り始める。休憩中だったので、結界は解除していた。動画を、本社に送りたいという要望が上がってきていたためだ。 「ユウキ」 「今川さん」 「いいのか?」 「あぁポーションですか?予定にはなかったのですが、見世物には丁度いいですよね」 「そうだな。最高の見世物にはなりそうだが、他にもいろいろ有るのだろう?」 「ありますが、見世物は一度にみせるよりも、小出しにしたほうがいいですよね?」 「ハハハ。そうだな。今日のここでの発表を行ったから、次からは、会場はどこでも大丈夫だと思うぞ?」 「そうですか?今日の予定はここまでにして、次回からは最後まで残った人だけに招待状を送るとかでも大丈夫ですか?」 「そうだな」  ユウキと今川の話に1人の男が割り込んできた。 「ユウキくん。今川さん。森田です」 「あっ森田さん。ありがとうございます」  ユウキは、素直に頭を下げる。 「え、違う。俺が、お礼を言おうと思って、ポーションは本物だ。俺が、苦しんでいた後遺症もすっかりと消えた」 「それは、よかったです。こちらでの実績がなかったので、わからなかったのですが・・・」 「大丈夫だ。実験だろうと、治験だろうと、問題はない。俺が、感謝していると伝えたかっただけだ」 「そう言ってもらえると嬉しいですよ」 「それで、俺たちのボスから、一つの提案があった。断られることを、前提にしているが、聞いてくれるか?」 「伺います」「・・・・」  今川は、森田の上に誰が居るのか掴んでいた。しかし、どんな提案をしてくるのかはわからないので、黙っている。 「ボスは、ユウキくんたちに、隠れ家を渡す準備がある」 「対価は?」 「中級ポーションを2本。できれば、3本」 「隠れ家は?」 「伊豆の山中・・・。正確には、ボスに聞いてもらう必要があるが、森下弁護士なら知っているはずだ。2つの山を、そのままユウキくんたちの名義に変更する」 「え?伊豆の山?」 「主要道路から離れていて、私道がつながっているだけで、別荘地にも出来ない。交通の便を考えると、再開発をするのも難しい場所だ」 「いいのですか?」 「問題はない。一度、ボスに会って欲しい」 「わかりました。連絡は、今川さんか森下さんにお願いします」 「ありがとう」  森田は、明らかにホッとした表情をしている。ボスと言う人物から、無茶振りをされたのかもしれない。ユウキは、少しだけ同情の気持ちを込めて、森田を見送った。森田と入れわかるように、アロンソが戻ってきた。
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