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普段は、#睥睨__へいげい__#という言葉がまさに相応しい。
だが、今の彼は恍惚とした表情を浮かべていた。
「クラウディア・ゲーテ……はあ……それは……」
声変わりの途中で、少しだけまだ高さの残る声が、私の名を呼んだ。
さらりとしたシルバーブロンドの髪に、#藍玉__アクアマリン__#のような透き通る青い瞳を持った美少年。
少年は今、海峡を渡るために船ではなく飛行船にわざわざ乗り込み、機内の椅子の上に座っていた。その足元に、私は跪いている。
ちなみになぜ飛行船に乗っているのかというと、彼は船の事故で兄を亡くしているそうで、乗船を拒否しているからだった。
今、飛行船の中には、操縦席に一人と我々二人の三人だけが乗っていた。
「ハインリヒ様、どうでしょうか?」
「はあ……クラウ……」
風に揺れる機体の床に跪いた私は、次の言葉を待った。
だが、喘ぐだけで、彼は何も答えない。
私は器用に、ちらりと視線を彼の方へと向けた。
少年将校の名は、ハインリヒ・フュルスト・フォン・ミュラー。
齢十五にして、陸軍准将という立場に立った彼は、まだ幼さの残る端正な顔立ちをしていた。少しだけでも年輩に見せようと、金の髪をオールバックにしている。
唇など、見ていると少女のそれのようにさえ見えた。
下士官である私の軍服に比べると、ハインリヒ様の軍服は装飾過多だ。
陸軍所属を意味する黒い開襟襟のコートと軍帽は、彼にはまだ、大きすぎるきらいがあった。コートの肩には将官を意味する金の肩章。部隊を意味する獅子の襟章の下、左胸にはいくつかの勲章や戦功章が輝いている。左肩に下げられた飾緒は金で統一されていた。
(女性にしては出世株だったとはいえ、下士官でしかない私が――まだ若いのに冷酷無慈悲だという少年の補佐に選ばれてしまったのは半年前、懐かしいわ……)
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