107人が本棚に入れています
本棚に追加
「おら、鳴けよ」
そう言って、彼は今日も私の奥に入ってくる。
蕾を刺激して、私を快楽に導こうとするけれど、絶対に声なんか出してやらない。
「……っ」
私は唇を噛み締めながら、彼を睨んだ。
このまま舌を噛んで死んでもいいと思ったら、唇からじんわりと滲み出す血なんて些細な問題だった。
彼はその綺麗な顔を歪ませて、私の中で果てる。
「……美織っ」
大っ嫌いな姉の名前なんて呼びながら。
彼の名前は、本郷鏡夜。
本郷財閥の長男、いわゆる跡継ぎである。
そして、私の姉である朝比奈美織は、彼の婚約者だった。
二人の出会いは、高校まで遡る。
名家や政治家の子息、令嬢たちが通う高校で二人は恋に落ちた。
それはそれは、ロマンチックな恋だったという。
本郷財閥が日本のトップを争う貿易会社を経営しているのと同じように、朝比奈家もまた貿易会社を幾つか経営していた。
当然の如く、二人の交際は両家から反対された。
しかし、美織は幼い頃から身体が弱く、長女でありながらも家を継ぐ資格を剥奪されていた。
そこに目をつけたのが、本郷鏡夜であった。
彼は、美織を花嫁として本郷家に迎えると宣言した。
その他、両家が婚姻を結ぶことによって生じる幾多もの利益を提示すると、朝比奈家はあっさりと手のひらを裏返した。
だが、そこで黙っていなかったのは本郷家であった。
跡継ぎの鏡夜に子どもが産めるかどうかも分からない身体の弱い小娘が嫁いでくるというのである。
到底、許される婚姻ではなかった。
ここで、二人の恋は終わるかに思われた。
しかし、朝比奈家がある話を持ち掛けてきた。
朝比奈家とて、そう易々と金儲けのチャンスを逃がすほど甘くはなかったのだ。
朝比奈家の当主であった私の父はこう言った。
「実は、私には愛人の子どもがいるのです。母親と田舎の方で暮らしているのですが、ゆくゆくは呼び戻して婿養子の嫁にでもさせるつもりでした。それが今、呼び戻すことになったとしても構わないでしょう」
つまり、美織と歳の近い私に白羽の矢がたったというわけだ。
そこからはあっという間だった。
私と母は朝比奈家の分館に部屋を与えられ、仕事先にも根回しをされていた。
戻る場所を失ったのだ。
それから、朝比奈家の当主と本郷鏡夜が私の前に現れた。
「なるほど。確かに美織とよく似ている。これなら、私のものも反応するでしょう」
「おぉ、それは良かった。では美琴、しっかり励めよ」
そうして、私は本郷鏡夜のもとに送り出された。
どうやら私は、身体の弱い姉の代わりに彼の子を産まなくてはならないらしい。
そして見事私に彼との子が宿った暁には、二人が入籍し、私と母は一生遊べるほどのお金をもらって自由になれるというわけだ。
ちなみに、婿養子の嫁になるという話はなかったことにしてもらった。
こんな仕打ちをして、私が朝比奈家に入るとは思わなかったのだろう。
当然の如く、納得してもらえた。
事が終わるとすぐに、私は鏡夜の部屋を追い出された。
これもいつものことだった。
情事のあとの甘い空気など、私たちの間には存在しない。
欲望を吐き出した彼は、いつだって同じ言葉を吐く。
「お前、よく見てみると美織とは似てないよな」
だったら、私の身体に反応なんてしなければいいのに。
そうすれば、私はもう用済みでしょ。
私が望むことはただ一つ。
早く解放して欲しい。
それだけだ。
最初のコメントを投稿しよう!