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いつでも私の気持ちは、ここぞという時に怖じ気づく。
彼からせっかく声を掛けてくれたのに。どうして断るんだろう。
「どうして、断るの? 本当は行きたいんでしょ?」
振り返るとそこには山崎さんがいた。今までのことを聞いていたのか、いつの間にか教室の後ろのドアの所に立っていた。
「あなた、いつまでそうしてるつもり? 偶然はいつまでも続かないよ」
「私のことはほっといてよ、あなたには分からない」
本人も気にしてる痛いとこを付かれて、思わず声を強くしてしまう。
「そう? そうやって、いつまでも逃げ続けてなさい! 私は逃げないから。はっきり言うとあなたがそうやってるとイライラしてしまうのよ」
彼女は目に涙を浮かべて。
「私は、あなたが……」
彼女は、私から視線を逸らした。
「ごめん、何でもない。余計なお世話だったね、じゃあ帰るね」
彼女の言葉を思い出す。
私は気づけば駆け出してた。彼に会いたくて、一緒に居たくて、伝えたくて。
階段を下り、向かいのホームに着く前に電車は走り出した。
ホームに降りると電車はすぐ先のトンネルに消えていった。
「なんだよ、やっぱり行きたいんじゃん」
後ろからのその声に振り返ると、髪を左手で少しかく仕草をしている彼がいた。
背は私よりも頭一つ分高い。
「じゃあ、行くか」
私の頭をポンっと一回触ると彼は視線を私から逸らした。
沈黙は続く。しばらくすると電車がホームに入って来た。ドアが開き、私は彼に続いて乗り込んだ。
「本日の花火大会は、予定通り開催するとの情報がー」
車内のアナウンスが流れる、私は少し間隔を空けて彼の隣に座ってる。
揺られてる間、私は彼の横顔を気づかれないように横目で見る。電車の走る音が私の心臓の鼓動に合わせてくれるように感じる。
電車は高校の最寄り駅から4つ目で終点に着いた。
「さあ、行こうか」
私に声を掛けると彼は先に進んでいった。
駅を出て、会場に向かう。周りには浴衣姿の男女が多く歩いている。私達は二人制服姿で付かず離れず歩く。
辺りが、薄暗くなってきた。私達は石垣みたいになってる所に腰を掛けた。良く見えそうな良い場所だ。会場に開始のアナウンスが流れる。
次第に二人の影が夜に消えていく。
一つ目の花火が上がる。すごく長い時間続く沈黙のように無音の一筋の線が上がっていく。
花火は沈黙の後、花開くように、私達の前に現れた。
その時、彼が花火を背にして私の前に立ち上がった。
それは花火の音が、私の世界に響いた後の、その残像のような音だった。
「俺、長瀬のことが好きだよ」
その声に、その姿に見とれていると次の花火が打ち上がる。
赤や金色が眩く輝く綺麗な花火だ。
私の想いは一度その花火に預けた。
花火の輝きと音が終わると、静寂に包まれた。そして彼を見上げて、「私も」と呟いたのだった。
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