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ただ、子供の話ぐらいは話題に上がりそうだったがそれもなかった。あったとしたら年齢を聞くぐらいで、皆バンドの練習に熱中していた。
そう、あくまで、バンド仲間の範疇であった。ここにはどこか、漫才コンビの空々しさが同居していた。
それが、3カ月ほど過ぎたころ〝ささやき大将〟はささやけなくなっていた。
声が完全に潰れた。
朝起きたら声が出なくなっていたのだ。
もう目の前が真っ暗になった。
もう、歌えない。シャウトしたときのオーガズムのような快感、それも家庭から解放されていると実感できる快感。
許し、願い、葛藤…
もうだめだ…。
〝ささやき大将〟は、気が付くと橋の欄干に立っていた。欄干は少しひしゃげた。
また、借金が膨らんでいた。以前よりも増したスピードで。
ならば、生命保険か…。
ここからピョンと…。
―ピョン―
―右手を上げて、左手下げて―
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