ささやき大将

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 〝ささやき大将〟は巨漢だ。  今からでも相撲取りになったら、幕内になれるんじゃないかと言われるほどだ。 〝ささやき大将〟はその話に1回乗ろうとしたことがあった、しかし、テレビ中継で観た力士たちの褌のようなまわし姿に、恥ずかしくなってしまい、相撲取り、力士、大相撲と話声が聞こえると、恥ずかしさのあまり店の奥に引っ込んでしまうことも多々あった。  奥ゆかしいのだ。  ああ、はっきりと伝え忘れていた。                         〝ささやき大将〟は、料亭を経営している。ただ、大将とは名ばかりで厨房には全く出入りせず、そもそも料理自体が全くできない。料理は料理人任せで自分は注文取りや会計の仕事に従事していた。  ただ、会計の時や注文を受ける時に、時たま聞き取りにくい声で対応してしまい、苦笑いを繰り返していた。客も家族も〝ささやき大将〟のウソには気付いており、手旗信号には苦笑も漏れた。  ときに、わたし声が出ないんですと声を出して大笑いされたこともある。
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