ささやき大将

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 ―ささやき大将―  巷ではこう呼ばれる。  巷というのはこの名古屋市内のどこからどこまでを指すのかは分からないが、とにかく巷だ。  大将の〝ささやき〟の名前の由来は、むかしロックバンドをやっていたときに声を潰してしまって、天龍源一郎のような聞き取りにくいささやき声になってしまったことが発端だ。  突然で済まないが、〝ささやき大将〟は手旗信号が大好きだ。  まだ、小学生のころボーイスカウトで手旗信号の歌やら使用法で楽しかった思い出が今も息づいているからだ。  実際、〝ささやき大将〟はささやき声は出せるが、喉が痛くてと声がほとんど出ないとウソをつき、手旗信号がやりたいがために、手旗信号をお客の注文取りや家族とのコミュニケーションの伝達方法に、家族の許しを得て使わしてもらっていた。  ただ、お客で不思議そうな顔をする人は少ない。一見さんお断りではないが、少数のつつましやかな常連客がほとんどで、実入りは少なかったが、むかしは親子3人が生活するには十分だった。
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