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地味,普通,一般的,当たり前,すべての言葉が真美子を表しているといっても過言ではなかった。幼い頃からとくに運動ができる訳でも勉強ができる訳でもなく,常に平均点の少し上にいるクラスでも目立たない存在だった。
それでも中学生のころに軽い虐めにも遭い,当時仲の良かったグループから無視をされた。ちょうど進級の時期だったこともあり,深刻な状態になる前にクラス替えがあったことで大きな問題にはならずに済んだが,その経験が真美子に無視されることへの異常な恐怖心を植え付けた。
幼い頃から自分が可愛いと思ったことはないが,可愛い綺麗なドレスを着た透き通るような肌の人形は大好きだった。それなりに女の子らしい趣味もあり,高校生になると可愛い動物のぬいぐるみを造ることに夢中になった。
思春期になっても異性から好意を抱かれることもなく,自分から人を好きになることもなく,恋愛を経験することのないまま誰にも知られずに地方の大学に進学した。
大学生になると,化粧を覚えたことで多少は異性の視界に入ることもあった。そのほとんどが身体目的だったとしても,求められること自体が真美子には初めてで嬉しかった。
ずっと人から求められることのなかった反動もあり,大学ではこれまで抑えていた衝動を抑える必要もなく,求められれば欲望のままに誰でも受け入れた。
真美子にとって自分を求めてくれるのであれば,相手の年齢も見た目も関係なかった。父親よりも歳上であっても,自分の三倍近い体重であっても,ホームレスのような不衛生な相手であってもすべてを受け入れ精一杯要望に応えた。そこに暴力があっても,そんなことは関係なかった。
どんなに歪んだ形であっても,求められることで心が満たされることを知った真美子にとって,自分の居場所を探しているうちに風俗店で働くことは自然な流れだった。
きっかけこそ田舎のホストクラブで働く男に貢ぐことが目的だったが,男に言われるがままに男の知り合いの風俗店の面接を受け,その日のうちに接客をし,次から次へと男達が自分の身体を求めてくることに経験のない喜びを感じた。
それ以来ほほ毎日,授業のない日は昼間から十人いたら息苦しくなるような換気の悪い,カラカラと換気扇の音が鳴り続く狭い個室で客からの指名が入るのをスマホを弄りながら待った。
待合室ではお互いに会話はなく,それぞれスマホでゲームをしているか,動画を観て指名が入るまでの時間を潰した。
定期的に個室の壁に備え付けられた電話の赤いライトが点滅し,受付から名前を呼ばれると,スポットライトの当たるステージに上がるような気持ちで部屋を出て,顔も名前も知らない男の前に跪いて,汚らわしい欲望を満足させた。
こうやって過ごす毎日が真美子の孤独と不安を和らげ,自分は誰かに必要とされていると感じる瞬間に幸せを感じた。
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