第二話「発光」

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 五時間め……  女子という女子が待ち望んだ英語の授業はやってきた。 「多くの英語の先生は、授業中に使われる外国語と日本語の配分を気にします。日本語の使用にやや否定的なんですね。私はそうは思いません。日本語はすばらしい。各国の言語と照らし合わせても、その語彙量の多さは群を抜いています」  参考書を片手に講義するソーマからは、若く柔軟な知性があふれていた。 「そのぶん言葉だけであらゆることが表現できてしまうため、日本人の身振り手振りにとぼしい感覚は否めません。テレビ等で外国人が言っていませんでしたか。日本人はマジメだ、日本人はカタブツだ……そんなことはありません。もっとも諸外国に近い物理的表現をする都道府県が、国内にひとつあります」  メガネを輝かせると、ソーマはほほえんだ。 「大阪のおばちゃんです」  生徒たちを明るい笑いに誘いながら、ソーマはある席の前に立ち止まった。 「ですので外国人と交流するときには、ほんのちょっぴりで結構です。頭の中だけで難しく考えず、体でも表現してみてください。多少言葉にミスがあっても、身振り手振りでなんとなく思いは伝わります。〝大阪は、私が生まれた街だ(オオサカ・イス・ザ・シティ・イン・ウィッチ・アイ・ワス・ボーン)〟……はい、では井踊(いおど)さん。ちょっと私のマネをしてみてください」 「ぼ、ぼくですか? は、はい」  夢でも見る面持ちで起立すると、セラはソーマの動きをなぞって英文を復唱した。  英語の授業はまたたく間に終わり、つぎは体育の時間だ。  あいにくの雨天のため、授業の場は体育館に移っている。バレーボールのトスの順番待ちの最中、体操服のシヅルは三角座りのままセラにつぶやいた。 「倉糸(くらいと)先生はすごいな。授業にでてきた英語が、しっかり頭に残っとる。習った範囲内なら、いますぐにでも外国人と話せそうやわ」 「だね。ふだんは苦手意識しかない英語の時間が、あっという間に過ぎたよ。これは成績が上がりそうだ……ん?」  ふと、セラはあたりを見回した。不思議げにたずねたのはシヅルだ。 「どした?」 「いや、気のせいかな」  きょろつきながら、セラは続けた。 「唐突で変な質問なんだけど、シヅル。だれか、ぼくたちを見てないかい?」 「見る?」  元気な掛け声が反響する体育館を、シヅルも一望して答えた。 「そら先生やクラスメイトやったら、たまにはこっちを見もするやろ」 「いや、そういうのじゃない。その、なんというか……」  どこか居心地悪そうに、セラは周囲を気にした。 「なんというか、こう、じっと観察するような視線だ」  あちこちの窓や出入り口を確認しても、おかしなカメラや部外者等はいない。  体操着をつまみながら、シヅルは首を振った。 「このなんの色気もあらへんジャージや。見ても撮っても、楽しくもなんともないと思うで」 「わからないよ。世の中には、こういうのが趣味なのもいるかも。もしかしたら観察者には、もっと別の目的があるのかもしれない」 「観察者って、また大げさな。考えすぎやって。お、出番やで」 「うん……」  シヅルに示され、セラはしかたなく練習の位置についた。投じられたバレーボールを、無難にサイドステップして受ける。  校舎の陰で、その人影は独りごちた。 「このわずかな呪力に感づいたか、結果使い(エフェクター)
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