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メガネ越しにふたりへ低温の眼差しを投げかけ、ソーマはつぶやいた。
「なぜジュズがここに?」
ヒュプノスの前に割って入り、セラは必死に取りつくろった。
「いきなりはひどいよ、先生。話を聞いて。このジュズは敵じゃない」
「ジュズという単語の意味がわかっているのか、セラ?」
ソーマの鬼気は本物だった。片手はポケットに入れたまま、硬い声で告げる。
「ジュズは存在そのものが世界の害悪だ。そいつらは未来で生物界の頂点に君臨し、人間を食って生きている」
「に、人間を……?」
救いを求めるように、セラもヒュプノスへ視線を移している。
やや間をおいて、なんと、ヒュプノスはうなずいて肯定した。
「〝竜巻の断層〟倉糸壮馬。我らの生態にずいぶんくわしいではないか」
「きさまらの情報は克明に記されていた。異世界の裏切り者、指名手配犯のメネス・アタールが残していった資料にな」
ソーマの手首で、銀色の腕時計はにぶい輝きを照り返した。
「組織はいま、現代に現れた特別製のジュズを抹殺するために奔走している」
そう言い放ったソーマの瞳を真っ向から見返し、ヒュプノスは反論した。
「我は嫌々ながらに、ホーリーの指示で人を栄養源にしていた。地球史上六度めの氷河期をむかえたあそこには、ほかにろくな食料もない。だが現代はちがう。刃の記憶の結果使いよ。我に敵意はない。なんとか共存の道は探れないだろうか?」
「そうだよ!」
声高に同意したのはセラだった。
「ヒュプノスは殺人鬼〝魔性の海月〟の退治に力を貸してくれる! 自然の保護にだって前向きだ! だから先生! 結果呪を収めて!」
「そこをどけ、セラ」
鋭利な呪力の刃は、ソーマの全身から立ちのぼった。
「ジュズは人類を生態系ピラミッドから追い落とす捕食者だ。ほうっておけば、あっという間に地球は滅亡するぞ。いまここで始末しなければ」
身構えながら、ヒュプノスは再確認した。
「話し合いの余地はない、ということだな?」
「質問なら、解剖後のきさまの内臓に直接聞く。いくぞ、ジュズ」
ふたりの中間地点で、爆発が起こったのは刹那のことだった。
灼熱した呪力の隕石が、窓ガラスを割って床に直撃したのだ。
「〝輝く追跡者〟……」
あらゆるものがなぎ倒されたクレーターのそばから、セラはヒュプノスを起こした。
「ごめん! 先生! 逃げるよ、ヒュプノス!」
「わかった!」
がらあきの窓から、セラとヒュプノスは夜へ飛び出した。
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