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第四話「祈願」
二合恵留の自宅……
しめやかに訪問したのは、セラとソーマだった。
もとメグルの部屋だった場所はきれいに片付けられ、卓上には彼の生前の写真が飾られている。細く煙の糸を漂わせるのは、遺骨入れとともにそなえられた線香だ。
骨壷の中身は、悲しいがほとんどカラに近い。わずかに残った遺骸がメグルのものであることを、ついに組織の科捜研も断定した。組織が警察経由で母親に実子の逝去を知らせたのは、つい先日のことだ。
長い時間をかけてあわせた両手を、セラとソーマは数珠を揺らしておろした。正座するふたりへ、おごそかに頭を下げたのはメグルの母親……二合理乃だ。急すぎる現実を突きつけられ、その瞳は涙も枯れて深い隈を作っている。
疲れ果ててやつれた顔つきで、リノはねぎらった。
「わざわざありがとうございます、おふたりとも……先立ったメグルも喜んでいるはずです。家族葬なので、お香典はお返しさせてください」
返される香典袋ふたつを穏やかに押し戻し、セラは首を振って答えた。
「すいません、このぐらいのことしかできず。心からお悔やみを申し上げます。お付き合いできたのはほんのちょっとの時間でしたが、メグルくんはかけがえのない親友でした」
やわらかなセラの言葉が引き金になったらしい。顔をハンカチで覆って、リノはまた恥も外聞もなく嗚咽を再開している。
息をしゃくらせながら、リノはうめいた。
「ごめん……ほんとにごめん……メグル。あたしが、あたしがもっとまともな母親なら……」
自虐するリノをなぐさめたのは、喪服姿のソーマだった。
「お母様の責任ではありません。私ども学校側の監督不行き届きです。殺人犯がメグルくんを狙っていることに、すこしでも早く気づいていれば……申し訳ありません」
「犯人は……〝食べ残し〟というやつは、いったいどこのだれなんですか?」
うなだれたリノの頭をそっと抱き、セラは伏し目がちに謝罪した。
「ごめんなさい、まだわからないんです。ですが犯人はいま、専門の組織や警察が総力をあげて追っています」
「憎い……犯人が憎い。呪う、呪ってやる。あたしの手で、犯人に復讐してやる」
きつくつむった目尻から、リノの頬を伝う涙はとどまるところを知らない。怨嗟に痙攣するその背中を優しくさすりつつ、セラはちらりとソーマへ振り向いた。ふたりだけにしかわからない決意をこめ、結果使いたちは互いにうなずきあっている。
神妙な声色で、セラは気遣いを口にした。
「どうかご無理だけはなさらずに。犯人はかならず捕まえ、しかるべき報いを受けさせます。ですのでお母さん。ぼくらにできることがあれば、なんでも言ってください。いつでもお手伝いしますよ」
「ありがとう、セラちゃん、倉糸先生。天国のメグルのためにも、よろしくお願いします……」
遺影の中から、メグルは無言で供花を見つめていた。
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