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第一話「点滅」
赤務市、美須賀大学付属高校……
放課後の裏山。
殴られて転んだ二合恵留のみぞおちを、追い打ちの蹴りがえぐった。思わず吐き戻した消化中の昼食が、学生服を汚す。
嘔吐に咳き込むメグルを囲むのは、こちらも同じ制服姿の五人組だ。そのだらしなく着崩された制服に、雑に染められた髪の毛、顔中に光るピアス。あちこちからはタバコの煙まで立ちのぼっている。
彼ら不良グループに目をつけられたのが運の尽きだった。反抗的な態度をとったということで、メグルはストレス発散の材料にされているわけだ。
メグルにつばを吐きかけ、リーダー格のシンゴはうなった。
「もいっぺん言ってみろ、二合よォ? あァ?」
唇をぬぐいながら、メグルは落ち着き払った態度で答えた。
「おまえなんか小物だ、って言ったんだ。消えた伊捨や苛野は、おまえらの百倍はやばかったぞ?」
「俺に仕切りができてないっつーのか!?」
メグルの頭を足で踏みつけ、シンゴはわめいた。
「よォく覚えとけ! 苛野の後釜は俺だ!」
靴の裏からシンゴを見返しながら、メグルは苦しげにだがあざ笑った。
「弱い犬ほど……よく吠える」
「うるせえ!」
サッカーボールのように蹴られたメグルの口から、血しぶきが飛び散った。
「生意気なこいつに思い知らせる!」
血走った瞳で、シンゴは仲間たちに目配せした。
「カネや安い腕時計を取り上げるだけじゃねえ。服も脱がせ。パンツまでぜんぶだ」
不良どもは好奇に色めきだった。
「ひゃっは! マッパのまま街を歩いてもらうってわけだな!」
「こいつは大だぜ! 心の傷!」
「やっちまえ!」
獲物を見つけたピラニアのように、不良たちはメグルに群がった。
その押し合いへし合いからすこし離れた場所……
だれにも見えない樹木の裏で、嘆かわしげに溜め息をついた者がいる。
制服のスカート姿の彼女は、井踊静良。
セラは心の中で独りごちた。
(先生を呼びに行くヒマはなさそうだね……しかたない、やるか)
胸の前で手を組むと、セラは目をつむって念じた。
(彼を助けて、お星さま)
「痛で!?」
悲鳴をあげたのは、不良のひとりだった。
どこからともなく飛んできた石ころが、突如、彼の頭を直撃したのだ。
頭を押さえて顔をしかめる仲間を目にし、シンゴはあたりを見渡した。
「だれだ!?」
すうっと肺をふくらませると、セラは木陰から大声を発した。
「先生がきたぞ! 逃げろ!」
「ひゃなッ!?」「うかィっ!?」「マジかッ!?」
口々に驚きを表現するや、不良たちは雪だるま式に重なって逃げだした。
残されたメグルに駆け寄ったのは、セラだ。用心深くあたりを確認しながら、なにが起こったか理解しかねるメグルへうながす。
「危ないところだったね。さ、逃げるよ」
「おまえは……井踊? おまえが助けてくれたのか?」
「話はあと。つかまって」
セラに肩を貸され、メグルはその場をあとにした。
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