第一話「点滅」

1/9
66人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ

第一話「点滅」

 赤務市(あかむし)美須賀(みすか)大学付属高校……  放課後の裏山。  殴られて転んだ二合恵留(ふたあいめぐる)のみぞおちを、追い打ちの蹴りがえぐった。思わず吐き戻した消化中の昼食が、学生服を汚す。  嘔吐に咳き込むメグルを囲むのは、こちらも同じ制服姿の五人組だ。そのだらしなく着崩された制服に、雑に染められた髪の毛、顔中に光るピアス。あちこちからはタバコの煙まで立ちのぼっている。  彼ら不良グループに目をつけられたのが運の尽きだった。反抗的な態度をとったということで、メグルはストレス発散の材料にされているわけだ。  メグルにつばを吐きかけ、リーダー格のシンゴはうなった。 「もいっぺん言ってみろ、二合(ふたあい)よォ? あァ?」  唇をぬぐいながら、メグルは落ち着き払った態度で答えた。 「おまえなんか小物だ、って言ったんだ。消えた伊捨(いすて)苛野(いらの)は、おまえらの百倍はやばかったぞ?」 「俺に仕切りができてないっつーのか!?」  メグルの頭を足で踏みつけ、シンゴはわめいた。 「よォく覚えとけ! 苛野(カシラ)の後釜は俺だ!」  靴の裏からシンゴを見返しながら、メグルは苦しげにだがあざ笑った。 「弱い犬ほど……よく吠える」 「うるせえ!」  サッカーボールのように蹴られたメグルの口から、血しぶきが飛び散った。 「生意気なこいつに思い知らせる!」  血走った瞳で、シンゴは仲間たちに目配せした。 「カネや安い腕時計を取り上げるだけじゃねえ。服も脱がせ。パンツまでぜんぶだ」  不良どもは好奇に色めきだった。 「ひゃっは! マッパのまま街を歩いてもらうってわけだな!」 「こいつは大だぜ! 心の傷!」 「やっちまえ!」  獲物を見つけたピラニアのように、不良たちはメグルに群がった。  その押し合いへし合いからすこし離れた場所……  だれにも見えない樹木の裏で、嘆かわしげに溜め息をついた者がいる。  制服のスカート姿の彼女は、井踊静良(いおどせら)。  セラは心の中で独りごちた。 (先生を呼びに行くヒマはなさそうだね……しかたない、やるか)  胸の前で手を組むと、セラは目をつむって念じた。 (彼を助けて、お星さま) 「痛で!?」  悲鳴をあげたのは、不良のひとりだった。  どこからともなく飛んできた石ころが、突如、彼の頭を直撃したのだ。  頭を押さえて顔をしかめる仲間を目にし、シンゴはあたりを見渡した。 「だれだ!?」  すうっと肺をふくらませると、セラは木陰から大声を発した。 「先生がきたぞ! 逃げろ!」 「ひゃなッ!?」「うかィっ!?」「マジかッ!?」  口々に驚きを表現するや、不良たちは雪だるま式に重なって逃げだした。  残されたメグルに駆け寄ったのは、セラだ。用心深くあたりを確認しながら、なにが起こったか理解しかねるメグルへうながす。 「危ないところだったね。さ、逃げるよ」 「おまえは……井踊(いおど)? おまえが助けてくれたのか?」 「話はあと。つかまって」  セラに肩を貸され、メグルはその場をあとにした。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!