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「やったー、これでアイス食べ行けるね!」
帰りのショートホームルームが終わり、伊勢崎が嬉しそうに言った。本当に彼は分かりやすい。犬みたいで可愛い。
「おい」
後ろから声が聞こえた。でも、自分たちには関係のない、交わることのない声だ。そう思っていると、目の前で喋っていた伊勢崎が顔をこわばらせている。
恐る恐る振り返ると、目の前には、あの藤岡君がいた。
「え」
まさか自分たちに声を掛けてくると思ってなかった。
「え、と……、どうしたの……?」
「……高崎、倉庫の整理手伝って」
「え」
さっきから「え」ばっかり言ってる気がする。まず、僕の名前覚えてたんだとか、なんで僕?とか藤岡君がなんで倉庫の整理?とか色々思ったことはあるが、怖すぎて聞けないし、拒否権ないんだろうなと思う。
「あ、えっと、今?」
これは自分の中で精一杯の抵抗のつもりだった。正直アイス屋さん行きたいし……。
「今」
この発せられた2文字で、もうアイス屋さんに行けないことが確定した。伊勢崎の方をみると、伊勢崎も僕と同じくらい焦った顔をしていた。変に抵抗すると彼まで巻き込まれそうな気がした。
「……伊勢崎、アイス、また今度でもいい?」
「あ、いや、高崎が手伝うなら、俺も手伝うよ……」
伊勢崎!と心の中で感動しながら叫んだ。正直、2人で倉庫に行くとかカツアゲとしか思えない。まだ2対1の方が安心だ。
「俺が誘ってるの高崎だけなんだけど」
その一言でまた希望が捨てられた。
「あ……、じゃあ、教室で待ってるね……」
そう言うしかないよねと伊勢崎に同情した。いや、傍からみたら僕の方が同情される対象だとは思うけど。
「整理いつまでかかるか分かんねーから、先帰れよ」
え、そこまで藤岡君に決められないといけないの?とか思ったけど、伊勢崎がチワワみたいに怯えているのを見て、僕も諦めがついた。
「うん……、待たせるのも悪いし、先帰っていいよ」
「高崎……、ごめん、ありがとう……」
「じゃあ、また明日……」
「うん……」
こんなにも悲しい別れは初めてだ。まるで今から絶対に死ぬことが決まっている戦場に行く気分だ。伊勢崎の背中も僕を救えなかった悲しみでか、いつもより小さくみえた。
「行くぞ」
「うん……」
いや、やっぱり戦場というより、死刑場に行く気持ちだ。
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