2度目の出会い

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 藤岡君の背中を追って、着いた先は体育館の倉庫だった。なんとなく、歩く方向的に体育館だとは思ってたけど、正直書類整理とかの方が良かった。体力がある方じゃないから、マットや飛び箱の整理なんて苦手分野すぎる。  特に藤岡君とは話すことはなく黙々とボールや野球のバット、竹刀の片づけをしていく。 「マットのそっち側持って」  急に話かけられ、驚いたが、確かに大きなものとなると2人必要だろう。小さく「うん」と返事をして、手伝った。 「黒髪と金髪、どっちがいい?」 「えっ」  まさかここにきて雑談をされると思わなかった。しかも、話題のチョイスが容姿とは……。結構ハードルが高い。美意識が高い人なら的確なアドバイスができるかもしれないが、髪の毛も染めたことない僕にその質問をするの?と思った。今藤岡君は金髪だから、金髪と答えた方がいいのかな……。 「えーと……、金髪似合ってると思うよ……」 「好みはどっち?」  え、そんなこと聞かれてもって感じだ。でも、金髪だと近寄りがたい感じがするし、黒髪なら、中学時代の良いイメージの藤岡君になる気がする。 「……個人的には、黒、ですかね……」 「ふーん」  あ、大丈夫みたいだ。黒って言ったら、「じゃあ、今は似合ってないのかよ」とかいちゃもん付けられるかもとか思ったけど、大丈夫みたい。良かった。マットも1枚目が運び終わり、2枚目に2人で手をかける。 「今の俺の印象は?」 「はい?」  え、えぇ?それって、どういう……、え、これこそ答えによっては殴られるんじゃないの?しかも、印象って……、正直に言うと「怖いです」しかない。さっきの威圧的な所を目の当たりにして、それしか言えない。というか、有無を言わさず、人に整理を手伝わせてる時点でかなり失礼で高圧的では……。絶対本人には言わないけど。 「印象言って、はやく」 「え、印象……?」 「頭悪そうとかなんでもいいから、正直に言って」 「え、えっと、……」  マットを阿吽の呼吸で移動させながら、言葉を必死に選ぶ。なにこれ、新手のいじめ?自分の語彙力のなさに、絶望している。 「その、勇ましい……かな」 「あー……、他のやつ」 「え」  まさかのダメ出しだ。これでも頑張って言葉を選んだのに。威圧的を勇ましいに変換させただけでも褒めて欲しいくらいなのに。 「え、あの……、うぅ、・・ちょっと近寄りがたい雰囲気かも……」  あぁ、やばい、明日からいじめられるかも。もっとオブラートに包めば良かった。あ、でも、良い意味でって言えばなんとかなるかも。ほら、美人の人とかいい意味で近寄りがたいじゃん。あれと一緒ってことにすれば、なんとか……。 「なんで?」 「え、なんでぇ……?」  すごい質問攻めしてくる……。もう限界かもしれない。もしかして、録音とかされてるのかな。ここで、変なこと言ったら、そこだけ切り取られて、「悪口言われた―」とか言いふらされるのかも……。だから、真剣に言葉を選ばないといけない。 「あの、その、ぼ、僕が、その、藤岡君みたいに……、コミュ力高くないから、藤岡君や、藤岡君の周りにいる友達みたいな……明るい人とは、な、仲良くしづらいかな……、とか思ったり……」 「ふーん……、コミュ力高いねぇ……」  あ、逆に変に褒めちゃったかな?嘘くさいとか思われたかも、でもコミュ力高いと思ってるのは本心なんだけど……。ご機嫌取りみたいになっちゃったかな……。 「コミュ力高い人は苦手?」 「え、いや……、僕が話すの苦手だから、話してて申し訳ないとは思うけど、……苦手じゃないかな」 「んじゃ、今俺と話してて申し訳ないと思ってるの?」 「え」  あ、墓穴を掘った……。やばい、もう逃げれないかも。うぅ、もう正直にいくしかない。 「あ、う、うん、あの、この会話、楽しいですか?」 「あんま楽しくはないけど、安心する」 「あんしん……?」 「いや……、不安にもなるけど、軌道修正できるしな」 「え?」 「今は安心8割、不安2割」 「さ、左様ですか……」  何を言ってるのか分からない。軌道修正ってどういう意味?若者用語でなんか他の意味があるのかな。あとで、ググろう。 「ん、これで整理は終わったな」 「うん……」  生きた心地がしなかった。でも、これで解放される。なんか今日はすごい疲れた。ゆっくり寝れそうだ。 「なあ、お礼になんかする」 「え、いや!いいよ……、大丈夫、大したことしてないし……」 「コミュ力つけたくない?」 「え」 「明日から毎日話しかけてよ」 「は、え、え?」  待って、何言ってるか分からない。え、話しかけるの嫌だけど……。それを今日のお礼にするの?え、待って、中学の時の頭の良さはどこにいったの?この会話の流れ、テストなら0点だよ?お礼にになってないもん……。 「あと、アイスおごる」 「……いや……、」 「駅前のとこだっけ?場所分かんないから、連れてって」 「いや、本当に、そんな大したことしてないから……」 「俺、お礼しないの嫌なんだよね。後から、あの時の貸しとか言われたくないし」 「そんなこと言わないよ……」 「……それかキスでもしてやるか?」 「はっ!?」 「んじゃ、アイスな。行くぞ」  そういって、倉庫から出て、荷物を取りに教室に歩いて行った。
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