2度目の出会い

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 うちの高校から駅まで歩いて25分くらい。坂はなくて平坦な道。バス代がもったいない距離なため、基本バス通の生徒は歩きだ。つまり、藤岡君と最低でも25分、話をしなければならない。  藤岡君と僕は、中学が一緒なだけあって、最寄り駅が一緒だ。もし、自分たちの最寄り駅まで一緒に帰るとしたら、電車移動は10分くらいだが、そんな都会じゃないから1時間に1、2本しか電車がないため、タイミングが合わなければ1時間くらい一緒にいることになる。それだけなら、まだ耐えれたかもしれないけど、アイス屋さんに一緒に行くなんて……。会話が成り立つ自信がない。 「この時間帯は人あんまいないな。」  そうでしょうとも。帰宅部はもう帰ってる時間だし、部活をやってる人たちはまだまだ活動中だ。こんな中途半端な時間に帰る人はいない。傍からみたら、ヤンキーとパシリにしか見えないため、人が少なくて良かったと思った。周りの目が冷ややかなのは辛い。あ、でも、もし、殴られたとしても、誰も止めに来てくれないな……。 「……」 「……」  うぅ、気まずい。もはや、共通の話題とかないしね。しんどいよ……。早くアイス屋さんに着いて欲しかった。むしろ、アイス屋さんがこっちに来てくれないかな、なんて考え出してる。 「どこ大目指すの?」 「え」  まさかの大学の話が来るとは。まだ高2の5月。全然なんも考えてない。というか、藤岡君はもう大学に行かないと思っていた。最近勉強しているのかもよく分からない。授業中は静かにしているが、寝てるんだと思う。藤岡君の席は一番後ろだから正直よく知らないけど。 「え、と、まだ全然決めてないや……、はは……」 「……ふーん、学部は?」 「あ……、文学部かな、歴史系やりたいかも……」 「日本史?」 「うん……、今のところは……」  あ、また、コミュ障の悪いとこが出てる。会話のキャッチボールがどうも苦手だ。せっかく藤岡君が話題を出してくれたんだ。ちゃんと、会話をしないと。 「え、と、藤岡君は、高校卒業したら、どうするの……?」 「まだちゃんとは決まってないけど、大学行くことは確定したな」  大学行くんだ……って正直、思った。今の学力は全然知らないけど、中学のままなら、ネームバリューのある大学に行けたはずだ。地頭はいいから、今からちゃんと勉強すれば、中堅の大学ならいけるのかも。 「私立?」 「え、まだなんも考えてないけど……、国立は厳しいかなとは……思う」 「東京?」 「あ、そうだね……、東京行きたいかも……」  めっちゃ質問してくる。この話題楽しいのかな。あ、もしかして、仲良い友達は大学行かなそうだから、僕に聞いてくるのかな。 「……ふ、藤岡君は?」 「一緒」 「あ、……やっぱみんな東京行きたいよね。」  そりゃあ、1時間に1、2本しか電車が来ないような田舎の人は少なからず東京に憧れる。藤岡君みたいなタイプはより一層そうだろう。ピアスや髪型からファッションに気を使っているようだし、偏見だけど、東京の大学にいそうなタイプだ。  そこからも何かと将来について質問攻めをされ、ドギマギしながら、なんとか琴線に触れないように無難な答えを返しておいた。そして、やっと待ちわびたアイス屋さんに着いたのだ。 「……あ、ここです、」 「ほー、今日は30%オフか」 「あ、オープンセールらしいです……」 「女子しかいないな」  店内を覗くと確かに女子高生しかいない。そんな中に男子だけで入るのは気まずい。いや、伊勢崎となら、そんなこと気にせず、仲良さげに入れたと思う。でも、こんなヤンキーとパシリで一緒に入店するのは嫌すぎる。ただでさえ、男子校で女子に会う機会ないのに、こんなとこで女子の注目を浴びたくない。 「あ、今日はやめとく……?」 「は?なんで?安いじゃん」 「……はは、そうだよね……」  いや、値段じゃなくて、お店の雰囲気からやめとく?って聞いたのに。藤岡君は女遊びしてるから、こういうの気にしないのかな。堂々してられるのは正直羨ましいけど。僕の顔が引きつっているのも、気にせず、藤岡君はお店に入っていった。 「色々種類あんなー」 「……わぁ、悩んじゃうね」  美味しそうなアイスが置いてある。チョコ系は絶対食べたいけど、あ、まず、何種類選べばいいんだろう。1種類のカップが一番安いだろうし、それで注文した方がいいよね。奢ってもらうのに、高いのを注文するわけにはいかない。 「あ、じゃあ……、僕はこのチョコのやつで……」 「ん、もう1つは?」  あ、2種類選ばせてくれるみたいだ。意外と優しいのかも。実はピスタチオ味も気になっていたから、嬉しい。ピスタチオは次伊勢崎と行った時に食べるか……と考えていたところだ。 「あ、ピスタチオで……」 「んじゃ、先に座ってて。注文してくるから」  え、店内で食べるんですか?座ってるの女子しかいないけど。しかも、インスタ映えするように可愛いテーブルが並べられている。ここに男2人はちょっと……と思ったし、歩きながら食べたり、電車待ちの時に食べた方が、一緒にいる時間も短くなる。でも、もう拒否権はないし、意見する気も起きない。大人しく、頷き、一番目立たなそうな席を探した。 「ん、お待たせ」 「あ、ありがとう、本当に……」  あれ、カップかと思ったけど、コーンにしてくれた。しかも、追加料金がかかりそうな、ワッフルコーンだ。 「あ、じゃあ、いただきます……」  ん!美味しい。目の前にヤンキーがいると思うと、味分かんなくなりそうだったけど、ちゃんと美味しい。今日は疲れたから、甘いものが沁みる。 「美味しい?」 「う、うん、美味しい、ありがとう」 「いや、別に」  藤岡君は机に肘をつけながら、無愛想にいった。藤岡君はアイスを持っていない。代わりに、飲み物を買ったみたいだけど、蓋がついていて、何を飲んでいるか分かんない。 「あ、……藤岡君は何飲んでるの?」 「コーヒー」 「……あ、そっか、……ごめん、甘いもの苦手だったよね?」  思い出した。中学時代に甘いものが得意じゃないと言ってるのを聞いた。女子に「ケーキが美味しいカフェ行こうよ」と誘われた時に、「甘いの苦手だから遠慮しとくよ」と断っていた。モテる人だから適当に断ったのかなと思ったけど、その後、自販機で間違えて買っちゃった甘いミルクティーを「これ、間違えて押しちゃったけど、苦手だから、良かったら飲んでくれない?」と僕に渡してきたから、本当に苦手なんだろう。 「は?」  ……え?うわ、藤岡君が真顔でこっち見てる……。え、地雷踏みましたか?倉庫が戦場かと思ってたから、無事帰還できて安心してたけど、アイス屋さんで地雷を踏むとは……。帰るまでが戦場ですよってことか……。いやいや、そんなこと考えててもだめだ。何が地雷だったのか……。えーと、そんなことも覚えてないのかよ的な?アイス屋さんに行くの実は不服だったの?でもさ!嫌ならアイスおごるとか言わなくて良くない?え、何が地雷? 「あ、ごめんなさい……、本当に、甘いもの苦手なの忘れてて……」 「……いや、……よく覚えてたなって思っただけ」 「……昔、ミルクティーくれたからね」  あ、昔の話とかしたくなかったかな、僕と話してた時代なんて思い出したくないかな。特に考えずに、話しちゃった。やっぱり、話題と言葉をちゃんと選ばないと……。 「はやく食べなよ。溶ける。」 「え、あ、うん」  普通に話逸らされた。まあ、都合が悪いなら、その方がありがたい。無理に話進めて機嫌損ねたくないし……。  あまりこの場所で長居したくないし、藤岡君もスマホを触り出したから、早めに食べ終えた。 「あの、本当にありがと」 「別に、これでチャラな」 「うん、あ、電車……」 「俺これから行くとこあるから。気を付けて帰れよ」  あ、そうか、僕と違って友達が多い藤岡君は忙しいか。  それに少しでも早く一人になりたかったため、ここで解散だとありがたい。 「あ、ちゃんと明日から毎日話しかけてね。」  え、その約束まだ残ってたの……。終わった。
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