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「高崎!!昨日、大丈夫だった!?」
教室に入ると同時に伊勢崎が声をかけてきた。そして、俺は昨日あったことを嘆きながら話した。
「え、アイスおごってくれるってどういうこと?えー!こわいこわい、何考えてるか分かんないよぉー」
「僕も怖すぎる……」
「てか、俺も高崎とアイス屋さん行きたかったぁー。えー、あいつずるいぃー」
「ふふ、また今度一緒に行こうね。」
そんな会話をしていると、朝のショートホームルームが始まる3分前くらいに藤岡君が教室に入ってきた。遅刻ギリギリだ。でもそんなことよりも、見た目の変化に驚いた。
「え」
「あ、髪色変えてる……。え、てかさ、本当に毎日話しかけるの?」
髪色を気に留めない伊勢崎がこそこそっと聞いてきた。正直、伊勢崎の質問に対する返事をすることも忘れるくらい僕は驚いてる。
だって、黒髪に戻していたから。
昨日の会話を思い出す。……いやいや、まさか僕の一言で髪色変える訳ないか。自意識過剰もいいとこだ。きっと、昨日の放課後、美容院に行く予定で、普通に黒か金か悩んでて、僕に質問しただけ。それで、僕の意見を少し参考にしたか、元から黒髪にしたかったけど勇気が出なかったから、僕に背中を押してもらったとかそんなんだろう。……、いや、後者だね、僕の意見を参考にしたりしないよね。黒って答えて正解だったんだろう。それにしても、びっくりした……。
「うーん、からかわれただけだと思うけどなぁー」
伊勢崎が声を発したことで、会話に戻った。
「あ……、だよね、もし、一人でいて、気分が乗ったら話しかけようかな……」
「え、本当に!?まあ……、一人の時なら、大丈夫かな。皆といる時に話しかけたら笑い者にされそー」
そうだよね。伊勢崎がいう通りだ。もし、一人なら声をかけよう。うん、できればね。別に昨日の貸しはアイスでチャラなわけだし。僕のコミュ障を解消してもらう義理はもうないから。
それから休み時間のたび、ちょこちょこ藤岡君のことを見ていたが、彼はいつも友達に囲まれている。一番後ろの席で集まりやすいってこともあるのかもしれないけど、みんな藤岡君を囲んで話している。まあ、今日は高校生になって初めて黒髪を披露したから、噂を聞いた他のクラスの友達も来ているようで、どうしても会話の中心になっちゃうのだろう。
僕と会話をしていた時もそうだったけど、藤岡君は自分からベラベラ話すタイプではない。短く要件だけ言うタイプだ。中学時代は会話を回すタイプだったけど、今は返事だけするって感じだ。ほら、ガラが悪いグループの中に1人はそういう人いない?陽キャだけど、はしゃがないタイプっていうか……。
あ、話が逸れたけど、何が言いたいかって言うと、僕が話しかける隙は一切ないということ。常に隣に誰かいる。
そんなんで、もう放課後になってしまった。
「高崎ーー、かえろー」
「あ、うん」
結局話しかけなかったけど、別にいいだろう。今日は黒髪お披露目デーで人気者だったし、僕みたいな陰キャが話しかけたら、だめだ。人気者を僕が独り占めなんてしたら、裏で何を言われるか分からない。これが正解。どうせ昨日の発言はただの気まぐれ。そう言い聞かせた。
「んじゃ、帰ろうか」
そう言って、伊勢崎と教室のドアを出ようとすると、誰かにぶつかった。
「あ、ごめんなさい。」
ぱっと顔をあげると、藤岡君と目が合った。
「あ」
「……今の話しかけたに入らないからな」
「……え?」
「こいよ」
鏡を見なくても分かる。今、自分は顔が真っ青だ。一気に血の気が引いた。
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