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別れの理由
「あかね……?大丈夫?」
「…やまと……」
お金の無い俺は少しでも生活費を浮かせるために恋人と同棲していた。家事は全部やる代わりに家賃は恋人が全部払ってくれていた。適当なバイトをするよりも良い暮らしを送れていた。
しかし、同棲をするというのは当然発情期も一緒に過ごすということだった。
「抑制剤飲んだの?」
「うん…」
「おいで。今、楽にしてあげるからね。」
大和はとにかく優しかった。俺のことを気遣ってくれるし、欲しいと言ったものはすべてくれた。ただ、交際が進むにつれ、一つだけ不満が生じてきた。
「やまと……?ゴム、つけた?」
「んー?」
「つけてよ……」
異様にゴムをつけたがらないことが不満だった。もちろん、俺の嫌がることをしない大和は言えばちゃんとつけてはくれるが、隙をみてはそのまましようとしてきた。
「今日もつけないとダメ?」
「だめ…、番になってから…。」
「そっか。早く卒業したいね。卒業したら、あかねは俺のものだもんね。」
卒業したら番になる。これが俺達の約束だった。
そんな約束を破棄することになったのは大学4年の夏ごろだった。
「あかね、今日はつけなくていいよね?」
「……え?」
発情期が来て、いつものように優しく体を触ってくれてた大和が急に断定口調で尋ねてきた。
「いや…、え?つけてよ。」
「でも、もう8月だよ。」
会話が噛み合ってない気がする。8月だから何?と思ってると、大和は自分のを俺に押し当ててきた。
「まっ、まって!ダメだって…!」
「赤ちゃん作ろうよ。」
「まだ早いって!」
「なんで?だって、今作ったら、卒業してすぐに産めるよ?そしたら、俺達は番なわけだし、子供も育てられるよ。」
何を言ってるのかすぐには理解ができなかった。
つまり、逆算して、今妊娠しろって言ってるの?ありえない。俺は貧乏ながらも、親が大学に行かせてくれた。だから、就活も頑張って、今は最終面接までいけた企業だってある。オメガでも受け入れてくれる企業を一生懸命探して、社会人として頑張ろうと思ってた。
それは大和も分かってくれてると思ってた。なのに、卒業してすぐ子育てをしろと?大体、番になる前に妊娠させたいって?
無理だと思った。この人とは添い遂げれないと確信した。
「大和、やめて。出てって。」
「え?でも、」
「いいから出てって!」
大和は俺の言葉を無視して、そのまま中に挿れた。
「ダメだよ。オメガの体は繊細でしょ?ヒートが来てるのに一人になんてできないよ。」
「ぬっ、ぬいて……、やめて……」
いつだかオメガの友達が言ってた。「アルファは賢いから、オメガのことを理解してるみたいな顔をしてるけど、実際は理解してない」と。今ならよく分かる。
「ね?赤ちゃん作ろ。俺とあかねの子どもなんて絶対に可愛いよね。」
「んん、やめっ…、やめて…!」
これまでずっとゴムをしたくないっていうのはその方が気持ちいいとかそういう理由かと思ってた。でも、大和は本気で子どもが欲しかったんだ。無理、生理的に無理。気持ち悪い。
「あかね、大好きだよ。ちゃんと子作り頑張ろうね。」
あれ?なんで俺、こんなやつ好きだったんだ?
……あぁ…、お金か。お金だった。オメガだから碌なバイト先にも就けず、お金に困ってた時に、飲み会で大和にお持ち帰りされて、次の日に酔ってた俺を襲ったお詫びとして、お金を渡された。それが出会いだった。今思うと最悪だ。そこから何度かお金をもらって一晩過ごしたりして、その後、大和のアプローチとお金に惹かれて、付き合った。
確かにイケメンで優しい大和のことは好きだと思ったけど、大和自身が好きだったのかはよく分からない。正直、愛してると思ったことは一度もなかったし、番になるというのもただの口約束として流してた。でも、可愛くもない俺にアプローチしてくれたのは嬉しかった。これは本心。だとしても、これ以上俺の気持ちと伴ってない大和の気持ちを受け入れることはもうできない。気持ち悪い。
「んんっ、やめろって…!別れる!別れてやる…!」
「そんなこと言わないの。ほら、頑張って。パパとママになろうね。」
聞く耳も持たず、俺は一方的に揺さぶられ、結局、中で何度も出された。
次の日、大和が出かけてるうちに、荷物をまとめて、俺は家を出て行った。もちろん、妊娠しないようにアフターピルも飲んで、なんとか妊娠せずに済んだ。
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