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「よくも……よくもやってくれたね。僕の大事な〈天羽〉を。僕自身も危うく無事じゃ済まないところだった。シャール、これで確信したよ。やっぱり君は……」
「何を言うの! 先に魔法で攻撃してきたのはあなた達でしょう? 私は仕方なくやり返しただけよっ!」
「オリヴィエをあんな目に遭わせておいて、何を言うんだ」
「だからあれは、私じゃないってば!」
言い返す私に向かい、エルサスが右腕を振るう。反射的に頭を伏せなければ、危うく胴体が一刀両断されるところだった。
地面に引きずり下ろしたのはいいものの、私の〈水鉄砲〉とエルサスの〈かまいたち〉じゃあまりにも分が悪すぎる。
私は彼の攻撃を躱しながら、先ほどとは逆に身体の周囲に水分を発散させていった。空気中の水分濃度が高まり、湿度がぐんぐん上がっていく。やがて溶けきれなくなった水分が、微細な水滴となって宙を漂い始める。
「これは……」
エルサスが気づいた頃にはもう遅い。私達の周囲は、真っ白な霧で覆われ始めていた。
「あの四人の中だと一番頭が良いと思っていたけど、意外と鈍いのね。観念しなさい。あなたの方からは見えなくても、私は霧の粒子を通じてあなたの姿が手に取るようにわかる。さっきの〈水鉄砲〉で心臓を一突きにする事だってできるのよ」
相手の視界を奪う水の魔法〈ホワイトミスト〉の中で、エルサスは呆然と立ち尽くしていた。こうなってしまえば彼に勝機はない。姿の見えない私に向けて、がむしゃらに〈かまいたち〉を放ったところで悪戯に魔力を消耗するだけだ。
元々は狩人である養父ゲハルトの手伝いをしたくて、山の中で獲物を仕留めるために編み出した魔法だった。対人に使用するのは初めてだったけど、なかなか使い勝手は悪くないと私は胸の中でほくそ笑んだ。
「別に私は、あなたの命を奪うつもりはない。私はオリヴィエを殺していないわ。お願いだから信じてちょうだい。私はこれ以上、あなたと無益な戦いなんかしたくないんだから」
私はそう言い、くるりと踵を返した。私の攻撃を恐れてエルサスが立ち往生している隙に、逃走してしまうつもりだった。
しかし――
「風の力を侮らないでくれよ」
エルサスの道化た声が耳に届き、はっとした次の瞬間――巨大な壁のようなものに突き飛ばされて、私の身体は宙を舞った。
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