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「おっ、それは……水の魔力の持ち主だけが使えるという回復魔法だね。初めて見たよ。できることならすぐ側で見せてもらいたかったけど」
エルサスが呑気に言うのを聞いて、流石に私もカチンと来た。
無抵抗の女の子を一方的に傷つけておいて、なんなのよその言い草は!
アレンといいエルサスといい、躊躇なく魔力を人に向けるなんて!
そもそも彼らの魔法は私をときめかせるために使うべきで、傷つけるために使うようなものじゃないっていうのに!
逃げ回ってばかりいた私も、いい加減腹が座った。そっちがその気なら、こっちだってやり返してやる!
エルサスの言う通り、私に与えられた魔力は水の力を借りるものだ。その性質上、回復や補助といった魔法が多いものの、私にだって攻撃的な魔法の一つや二つ、使えないわけじゃない。
「そんなに見たけりゃ、すぐ側で見させてやるわよっ!」
じゃんけんのチョキをくっつけたみたいに人差し指と中指をピンと立て、指先に神経を集中。そこに大気中に漂う水分をぎゅっと凝縮させる。
「後で泣き言言わないでよねっ!」
私は叫ぶと同時に、二本の指を上空のエルサスに向けた。指に集まった微量の水が、細いレーザーのように勢いよく飛び出す。見た目は地味だけど、ピンポイントの破壊力は岩をも砕く、名付けて〈水鉄砲〉だ。
「な……」
おそらく彼にとっても、魔力による攻撃を受けるのは初めてだったのだろう。水流に翼を撃ち抜かれ、ぐらりと空中でバランスを崩した。
すかさずもう片側の羽にも〈水鉄砲〉を噴射。両翼に穴を開けられ、完全に制御を失った〈天羽〉は錐揉みしながら急降下した。
「くそっ!」
地面にぶつかる寸前、すんでのところでエルサスは〈天羽〉を脱ぎ捨てた。〈天羽〉はめきめき、ぐしゃりと地面に衝突してひしゃげてしまう一方、エルサスは風に吹かれた木の葉のようにふわりと舞い、緩やかに着地した。
風の魔法――だろう。
さらさらときめ細かな白銀の髪を揺らし、くるりと一回転して地面に降り立つエルサスは、風の妖精のようだった。
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