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「でも、君じゃないとしたら……」
「他の誰がやったかまではわからないけど、少なくとも私は自分がやってないという事だけはわかる。そして、多分あなたも違う。あなたも殺す気なら、私を殺せるタイミングが何度かあった。でもそうしなかったもの。あなたが犯人だとしたら、みんなの目を誤魔化す為に、躊躇なく私を殺して犯人として連れ帰っているはずだわ」
「僕と君は、犯人じゃない……のか」
エルサスの身体の中で唯一男性らしさを感じさせるのどぼとけが、ごくりと波打った。
「じゃあ、他の三人の中に犯人がいるかもしれないっていうのかい?」
「この島にいるのが、本当に私達だけなら。ねぇ、エルサス。逆に教えて欲しいわ。あなた達の中で、オリヴィエを殺すような理由があるのは誰? 恨みがあるとかじゃなくてもいいの。彼女を殺す事で、何かメリットが得られるとしたら」
「メリットだなんて、そんなのあるはずが……」
物思いに耽る様は優美な彫像のようですらある。思わず見惚れていたら、エルサスがぽつりと言った。
「……〈宮廷魔術師〉の候補が一人減る、というぐらいじゃないかな」
私ははっと息を飲んだ。
「一人減るって……別にみんなでなればいいじゃない。誰か一人しかなれないっていうわけじゃないんだし」
「えっ、そうなの?」
エルサスは驚きを返した。
「そうじゃないの? この合宿を乗り越えさえすれば、みんな〈宮廷魔術師〉になれるんでしょう?」
「それは僕達が聞いた話と違う。てっきり僕達は、六人のうち誰か一人だけしか〈宮廷魔術師〉には選ばれないものだとばかり。この合宿は、その一人を決めるためのものなんだろう?」
「そ、そんなはずは……エルサス、あなたそれ、誰から聞いたの?」
「誰からって……そうだ、オリヴィエが言っていたんだよ。僕だけじゃない。みんなそう理解しているはずだよ」
私は耳を疑った。
殺されたオリヴィエが、一体どうしてそんな事を。
だとしたら全員、重大な思い違いをしている事になる。
六人で力を合わせて七日間の合宿を乗り越えるのと、七日間の合宿の中で選ばれし一人を決めるのとでは、そもそもの前提条件が変わってくる。
そのせいでオリヴィエが殺されたのだとしたら――私は脳裏に浮かんだ最悪の想像に身震いした。
「エルサス、戻りましょう。みんなが危険だわ」
「危険……?」
「もしそのせいでオリヴィエが殺されたんだとすれば、犯人は他の人間も襲うかもしれない。私を追うように仕向けて、全員をバラバラにする事こそが犯人の狙いかもしれないわ」
「なんだって?」
ようやく意味を察したのか、エルサスは目を見開いた。
「犯人は自分が〈宮廷魔術師〉に選ばれるために、私達全員を殺す気かもしれないって事よ!」
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