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「まずはフロイを探すべきかもしれないね」
「私は逆だと思うわ。ドエムを探しましょう」
「えっ、どうして?」
「彼が一番冷静に、状況を理解してくれそう。その上で私達の味方についてくれれば、心強い事この上ない。ドエムを仲間に引き入れて三人で行動すれば、例えフロイとアレンのどっちかが襲って来たとしても安心だもの」
「……なるほど一理ある。シャール、君は僕が思っていたよりもだいぶ聡明なんだね」
「さっきはじゃじゃ馬って言った癖に」
私が口を尖らすと、エルサスは肩を竦めて誤魔化した。
まぁ私も本来の正ヒロインシャールの性格とは大きくかけ離れてしまっているだろうから、お互い様だ。
ドエムを探すためには、来た道を引き返す事になる。〈天羽〉があればひとっ飛びだったのに、壊してしまったのが悔やまれる。後悔先に立たずだ。
「怪我は大丈夫? 辛い時には言ってね。休み休み行こう」
すっかり気を許してくれたようで、エルサスは人が変わったように気遣いを見せてくれる。
私が犯人ではないと判断した今となっては、自分が傷つけてしまった事をだいぶ気に病んでいるようだ。
私が食らった魔法が〈風壁〉であったのが不幸中の幸いだった。魔力を巨大な壁状に引き伸ばした分、殺傷力も分散される。私のダメージは木にぶつけた背中の打ち身ぐらいで、回復魔法の力を使えばそう引きずるような怪我ではなかった。
もっとも回復魔法自体に馴染みがないエルサスにとっては、私が強がってるんじゃないかと半信半疑なのだろう。気遣ってくれる分にはありがたい。甘んじて好意を受け止めておこう。
そそくさと足を走らせ、ようやく半分程戻って来た時――森の切れ目に、突如として巨大な岩壁が立ちふさがった。
「おかしいな。こんな場所無かったはずなんだけど」
エルサスが首を捻るものの、逃げるのに夢中だった私に周囲の景色なんていちいち気にしている余裕があったはずもない。
「道を間違えたのかしら?」
「いや、そんなはずは……こんなに高い隆起があれば、風の流れだって変わってしまうからね。来た時には確かになかったはずだと思うんだけど……」
怪訝に思いながらも迂回路をとる。するとその先にも、再び壁がそそり立った。
「おかしい。いくらなんでもこんなはずは……」
私も頷き返す。これじゃあ迷路だ。いくら逃げ回っている最中だったとしても、全く記憶にないはずがない。
「……ん? 何か聞こえない?」
「え?」
私達は顔を見合わせて、耳を澄ました。
ゴゴゴゴゴ……ドドドドド……という地震の揺れにも似た音が響いてくる。
どこからだろう。地震であれば遠くから近づいてくるはずだが、これは遠くからというより――真下から?
気づいた瞬間、ドゴォッ! と凄まじい音とともに、足元が崩れ落ちる。
「うわあぁぁぁっ!」
「きゃあぁぁぁぁーーっ!」
急に足場を失い、私達は悲鳴をあげて、ぽっかりと空いた地面の穴に吸い込まれて行った。
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