崩落

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 深く、どこまで続くかわからない漆黒の闇の中を落ち――時間の長さが穴の深さである事に気付き、死を意識した瞬間、ふわりと身体が浮いた。 「きゃっ!」  どすんと椅子から転げ落ちたぐらいの勢いで尻もちをつき、思わず悲鳴を上げる。  いたたた……でも今の浮いた感じは、きっとエルサスが魔法で助けてくれたのかしら? 「シャールちゃん、大丈夫?」  エルサスの声から察するに、彼は無事着地したようだ。風の力を持つ彼は、どんなに高い所から落としても美しく降り立つに違いない。まるで猫みたいな男だ。  しかし穴の中は暗闇そのもので、声はすれど彼の姿は愚か、周囲の様子すらも窺う事ができない。 「エルサス、どこ?」 「こっちだよ。わかる?」  伸ばした手の指先が彼の手に触れた瞬間、ぎゅっと握り返されて思わず胸がときめいた。女の子みたいな顔してても、やっぱり男の子だけあって頼りになる。 「それにしてもこれは……タムランド島の地下に、こんな地下洞窟があるなんて」 「洞窟? 穴じゃないの?」 「いや、見えないだけでずっと横に奥まで続いてるみたいだ。それにしてもこの真っ暗な闇。闇の魔法に引っ掛かったんじゃなければいいけど」  ぴちゃり、と頭に雫が落ちてきて、私はすくみ上った。 「……もしかして」  私に頭にひらめくものがった。 「ドエムの仕業かも」 「ドエム……どうして?」 「彼は土の魔力の使い手でしょう? 多分その力を使って、私達をここに陥れたんだわ。さっきの岩壁もきっと、ドエムの力」 「なんだって? ドエムの力はどれだけ強大なんだ」  姿こそ見えないものの、エルサスが舌を巻くのがわかった。突然壁を作り出したり、大地に深い穴を開けるだなんて、私達には不可能だ。 「ドエムはこの鍾乳洞の存在を知っていて、わざと僕達を落としたのか」 「言ったでしょう? この世界は私が経験したゲームの世界だって。その中に出てくるの。ドエムが見つけた地下の鍾乳洞を二人で探検するイベント」  『恋乙』ではたまたま見つけた鍾乳洞に二人で入り、奥に幻想的な地底湖を見つけてうっとりするのも束の間、落盤によって来た道が封鎖されるという緊急事態に陥る。あわや生き埋めか、地下に閉じ込められたかというピンチの中、ドエムが土で作り出した小さな人形に道案内を頼み、無事脱出を果たすというイベントだ。 「どうしたのかしらあの子? 出口が近づいて来たら急に動きがぎくしゃくし始めたわ」 「きっと勿体ないと思っているのだろう。〈ゴーレム〉は主人の心に敏感だからな」 「勿体ない……?」 「ああ。このまま閉じ込められていれば、その分君と二人きりでいられるのだからな」  なんて出口を目の前にして、二人でなかなか踏み出せずにドキドキする甘い時間を演出するだったはずなのに。  まさかその洞窟の中に私達を閉じ込めようとするなんて!  とはいえあくまでゲームの中での出来事だから、出口までの細かい道順までは私にもわかるわけではないのだけど。
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