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「なるほど。もし君の話を信じるとするならば、どこかに脱出経路があるのは間違いないね」
「ええ。もう塞がれている可能性もないわけじゃないけど」
「……いや」
エルサスは言った。
「君が教えてくれなかったら見落とすところだった。微かに風を感じる。この風を辿れば出口にたどり着くのは間違いないよ」
この時ほどエルサスがいてくれて良かったと思った事はない。
私達は風に導かれるまま、闇の中を手探りで出口を目指した。
あまり入り組んだ洞窟でなかったのは幸いかもしれない。一歩一歩、足元を確かめながら地道に歩みを進めたころ、やがて視界の先に、出口を示す光が見えてきた。
「エルサス、あれ! やった! 出口よっ!」
「うん。行こう!」
私達は光に誘われるように、駆け出した。
長い長い闇のトンネルを抜け、溢れんばかりの眩い光と青々とした木々の連なりに思わず目を細めた次の瞬間――
ゴォゥン! というすさまじい音とともに、再び光が失われた。
あまりにも突然の出来事に何が起きたか一瞬混乱したものの、すぐに気づいた。突如地面が盛り上がり、見上げるような岩壁がそそり立ったのだ。
「一体何のつもりだい、ドエム! 全部君の仕業だって事はわかっている! そろそろ姿を表わしたらどうだ?」
エルサスが叫ぶ。
……しかし、返事はない。
かと思いきや、目の前の岩壁がガタガタと震えだした。亀裂が入り、割れた岩がぽろぽろと崩れ始める。何事かと見守っている私達の前で、岩壁は一つの形を作り出した。
人型。
私達の目の前に、巨大な〈ゴーレム〉が出現した。
「な、なんて大きさだ……」
「エルサス、危ないっ!」
愕然と目を見開くエルサスを、私は咄嗟に突き飛ばした。〈ゴーレム〉が私達の胴よりも遥かに太い腕を振り回し、叩きつけてきたのだ。
これはまさか、『恋乙』の中で地下洞窟から私とドエムを導いてくれたあの可愛らしい土人形? あの子がこんなにも巨大で凶悪な化け物に姿を変えるなんて。
「ドエムめっ! やる気かっ!」
エルサスは身構えるやいなや右腕を振るい、〈かまいたち〉を叩きつけた。しかし――どんっと直撃したにも関わらず、止まったのは瞬きするほど僅かな時間でしかなく、〈ゴーレム〉は何事も無かったかのようにすぐにまた動き出した。
「まさか……魔法が効かない? そんなバカな」
今度は形を変えて、私が食らったのと同じ〈風壁〉。しかしこちらは威力自体が足りない分、〈ゴーレム〉にはなんの効果も及ぼさなかった。
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