崩落

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 ロケットのように空を跳んだエルサスは、すんでのところで私を抱きかかえ、〈ゴーレム〉の下敷きになるのを免れたものの、そのまま勢いを殺しきれずに草の上をゴロゴロと転がった。 「痛たたたたっ!」 「だ、大丈夫エルサス? ありがとう!」 「風の力を自分にぶつけて飛んだんだ。あんまりカッコよくないから、やりたくなかったんだけど」  風の〈ロケット噴射〉みたいなものか。エルサスってばまだ隠し持ってる魔法があったのね。  ズズズズズゥゥゥゥン……と地響きを立てて、〈ゴーレム〉がうつ伏せに横たわる。  なんとかかんとか退治はしたものの、エルサスも私も魔力を底まで使い果たして、肩で息をする始末だ。 「あとはドエム本体だけか。一体どこに……」  周囲を窺おうとした私達は、目を疑った。  先ほど倒した〈ゴーレム〉が、再びむくりと起き上がったのだ。  自分でぐりぐりと押し付けるようにして、必死の思いでもぎ取った右足もくっつけてしまう。荒療治にも程がある。  そうしてやや引きずるようなぎこちない足取りではあるけれど、私達に向かって歩き出した。 「どれだけ手強いんだ……」  エルサスがごくりと生唾を飲み、身構えようとするのを、私は手で制した。 「ここは一旦撤退しましょう。ドエムがどういうつもりかわからないけど、あまりにも分が悪すぎる」 「撤退って、どうやって……」  言いながらエルサスは、周囲に立ち込める霧に気付いたようだった。  私が生み出した〈ホワイトミスト〉に包み込まれた〈ゴーレム〉は、はたと動きを止めた。思った通りだ。〈ゴーレム〉自体は非生命体だとしても、操っているドエム本人は生身の人間である。視界を奪われてしまえば、身動きの取りようがない。 「今のうちよ。さぁ早く!」 「ドエム……彼にはわかって欲しかったのに」  私に促され、走り出したエルサスの顔には苦渋が滲んでいた。  ドエムも〈ホワイトミスト〉の中では処置なしと踏んだのか、それ以上追跡しようとはして来なかった。  結果……私達は二人がかりで戦いながらも、ドエムの操る〈ゴーレム〉を前に潰走を余儀なくされたのである。
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