炎上

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炎上

「ドエムについて、どう思う?」  へとへとになった身体を休ませながら、私はエルサスに意見を求めた。 「どうっていうのはつまり……彼がオリヴィエを殺した犯人かどうか、という事だよね?」 「そう。彼は犯人で、オリヴィエに続いて〈宮廷魔術師〉の候補である私達を殺そうとしたのか。それともただ単に、オリヴィエを殺した容疑者である私を殺そうとしただけなのか」 「……なんとも言い難いね。でも僕は、後者な気がするよ。あくまでオリヴィエを殺した犯人として、君を捕まえたかっただけじゃないかな」 「その根拠は?」 「殺す気ならもっと積極的に襲ってもおかしくないだろう。わざわざ地下の洞窟に閉じ込めたりする理由がない」 「ご明察。私もそう思うわ。最初からあの真っ暗な穴の中に〈ゴーレム〉も用意されていたら、私達は一貫の終わりだったもの。そうしなかったのは、ドエムは私を殺そうとしたわけじゃなくて、あくまで閉じ込めておくのが目的だったんだと思う」 「理由は他にいくらでも挙げられるけどね。もし彼が全員一網打尽を狙うのなら、穴の中に僕達を閉じ込めた上で、フロイやアレンを呼び寄せる気だったのかもしれない。全員集めた所に〈ゴーレム〉を放り込んで、みんなまとめて始末するつもりだったとか」 「私を餌に他の二人をおびき寄せるって事? でもそれは無理があるわ。どうせ殺すなら、みんな集めてから殺すなんてリスクのある手段は選ばずに、穴に落とした順から一人ひとり殺してしまった方が確実なはず。私を捕まえたって言っても、実際に生かしておく必要はないんだし」 「だろうね。だから、一番高い可能性を考慮した上で、彼は違うと思うと言っているのさ」  エルサスは満足そうにうなずいた。  やっぱり彼がいてくれるのは心強い。二人で話し合えば、自分一人で考えるよりも遥かに早く、一番正いと思われる答えに行きつく事ができる。  多分、ドエムは白だ。  彼はあくまで私を、オリヴィエ殺しの犯人として捕らえようとしただけなのだろう。  だとすると問題は、残る二人のどちらが犯人なのか、だ。 「あ……」 「どうしたの?」  ふと上空を見上げた私の視線を、エルサスは不思議そうに目で追った。  既に日は暮れかかり、空は橙から紫、黒へとコントラストを描いている。そこにポツンと浮かぶように、張り出した枝をしならせ、楕円形の黄色い実がなっているのが見えた。 「あれは多分、パコナの実……」 「パコナ?」 「食べられるの。美味しいはずよ」 「へぇ、食料か。そういえば今日は起きてからずっと、何も口にしていないね。けどあれ、本当に大丈夫?」 「多分」  高い木から伸びた枝にいくつもの実がぶら下がるその光景は、『恋乙』の中で見覚えがあった。
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