19人が本棚に入れています
本棚に追加
ゲームの中であれを見つけるのは確か……フロイだ。手分けしてバーベキューの食材を探しに出たものの、なかなか見つける事のできない私に、ばったり出会ったフロイが教えてくれるのだ。
「ありゃあパコナって言って、この辺の海際にしか生えていない珍しい木なんだ。パコナの実はスゲー美味くて、王都に持って行きゃあ高値で売買されるんだぜ。そのままでも食えるが、皮のまま丸焼きにしても甘みが増して違った美味さになる」
「そうなんだ。じゃあ、フロイはあれを持って帰るの?」
「いや……俺はあんなしょうもない果物はいらねえな。シャール、お前に譲ってやるよ。どうせ良い食材が見つからなくて困ってたんだろ? それに果物なんて、女の子らしくていいじゃねえか」
そう言ってフロイが採ってくれたパコナの実を二人で食べて、美味しいと微笑み合う。代わりに私は、「バーベキューって言ったら肉だろ?」と言うフロイを手伝い、森の中で獣を獲る手伝いをするのだ。二人でわいわい騒ぎ、狩りに奔走しながら、遊び人フロイの優しくて生真面目な一面が垣間見れる胸キュンイベント。
「ほら、採れたよ。食べてみる?」
風の魔法でパコナの実を落としたエルサスが、手渡してくる。近くで見れば、やっぱり『恋乙』で見た物に瓜二つだ。
「とっても甘い香りがするのね。美味しそうだわ」
「本当に。この匂いはそそられるね」
バナナみたいに皮を剥いて、現れた乳白色の果実を頬張る。サクリとした歯ごたえとともに、口の中が優しい甘みと強い香りでいっぱいになった。
梨のようにクリスプな食感なのに、甘味の強さはバナナに似ていて、桃みたいに芳醇な香りが鼻孔をくすぐる。一口食べただけでとっても幸せな気分になる。
すごい! 何これ想像以上に美味しい!
「美味しいわこれ! 食べてみて!」
こういう所にも育ちの違いが現れるのか、半信半疑で様子を窺っていたエルサスも、私が口にしたのを見て安心したようにパコナの実を齧った。途端、顔をほころばせる。
「確かに。これは美味しいね。今まで食べた果物の中でも格別かも」
あぁそういえば、『恋乙』の中でも私が持ち帰ったパコナの実を食べて、エルサスは同じセリフを言ったかもしれない。彼だけじゃなくてアレンもドエムも、みんな初めて食べるパコナの実を絶賛してくれるのだ。
本当はフロイが教えてくれたのよ、と言いたい私に、フロイが黙ってろととアイサインを送って来て、私達はこっそり二人だけの秘密を共有する。
そのフロイが今ではオリヴィエ殺しの一番の最右翼だなんて、なんだか切ない気がしないでもないけど。
最初のコメントを投稿しよう!