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「でも、そんなはずは……僕達はみんな子供の頃からの幼馴染だし、闇魔法なんて、今まで誰も……」
戸惑いを浮かべたエルサスの視線が、私の上で止まった。
……え?
気づけば全員の視線が、私に集まっていた。
「第一発見者はシャール……君だったか」
ドエムが低い声で、唸るように言う。
「わ、私はっ……ち、違うわよっ! 私が扉を開けた時には、既にオリヴィエがこの状態で……」
「……と見せかけようとして、悲鳴をあげた可能性もあるってわけか」
決めつけるようなフロイの物言いに、私は言葉を失った。
「残念だけど……この中でいまいち素性をよく知らないのは、シャール、君だけなんだよ。僕達は皆、幼い頃から共に過ごして来た気心の知れた仲ばかりだもん。闇魔法を使う人間なんていない事は、調べるまでもなくわかっている。君以外に、こんな事をしそうな人間はいないんだ」
慰めるような口調で、エルサスが私の肩にポンと手を置いた。
……嘘?
嘘でしょ?
まさかみんな、私を疑っているの?
確かにこの中では私だけ、急に混ざり込んだ異分子みたいな存在だけど。でもだからこそ、運命的な出会いから恋が生まれるんでしょう?
その設定がこんなところで裏目に出るなんて。
「まぁ確かに昨日の夜のオリヴィエの当たりはだいぶ強かったもんな。さんざんコケにされて、目障りに思う気持ちはわからないでもねえが」
「計画的な犯行とは思えんから、たまたま衝動的に刺してしまっただけではないのか。大方、朝から女同士で言い争いにでもなったのだろう。そうであるならば正直にそう白状した方がいいな。多少なりとも恩赦が得られる可能性もある」
フロイとドエムもまるでそう決まったかのような口ぶりだ。
「かくなる上は……王城へ引き立てて、刑吏の者に罪状を調べて貰う他あるまい」
ちょっと待って!
ため息とともにアレンの口から飛び出した言葉に、耳を疑う。それは私にとって、大いに聞き覚えのある台詞だった。
なぜならばそれは物語の最後の最後に、全ての悪事が露呈した悪役令嬢オリヴィエに対して、アレンが発するべき最後通牒ともいえる台詞だからだ。
それがまさか、物語が始まって間もない段階で、ヒロインである私に向けられるなんて。
一体どうしてこんな事に。
このままじゃ私が刑罰を受ける役目になっちゃうじゃない!
「ま、待って! 私の話を聞いて!」
動揺した私は椅子を蹴って立ち上がり、これまでの十六年間自分の胸の内にだけ秘めてきた秘密を打ち明けた。
私は闇魔法の使い手などという身分では誓ってないが、元々はこの世界の人間でもない。
別の世界の日本という国に住む普通の女子高生だったのだと――。
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