開幕

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 しかし、夢中で繰り出した私の提案は、かえって彼らの機嫌を逆撫でする結果を招いた。 「つまり君は……オリヴィエはどうせ死ぬ運命だったのだから、放っておいて楽しくやろうと、そう言いたいわけか?」  アレンの顔には、明らかに苛立ちが浮かんでいた。 「楽しい夏合宿に恋物語……ね」 「由緒正しい試練の魔法合宿もずいぶん嘗められたもんだな」 「苦し紛れの妄言としか思えん」  他の三人も同様だ。軽蔑と嫌悪感が入り混じった、不快感百パーセントの苦々しい表情。  ここに至ってようやく私は、自分の愚を悟った。  幼馴染みを殺された彼らにとっては今この時こそが現実で、ゲームの話なんかされても理解できるはずがない。しかも私は、今一番信用できないと思われている殺人事件の容疑者だ。  いかに今の私が『恋乙』のヒロインとして誰からも愛される可愛らしい容姿を有していたところで、今現在の状況では何の効果ももたらさなかった。 「そ、そうじゃないの……そういう意味じゃなくて、とにかく今のこの状況はイレギュラーだっていう事を理解してもらった上で、今すぐ私を城に引き渡すとかそういうのは時期尚早というか、早まり過ぎっていうか……」  全身に針のように突き刺さる彼らの視線から距離を置くように、じりじりと後ずさり。 「待て、どこへ行く。それ以上勝手な真似をすると承知しないぞっ!」  アレンが怒声を上げ、手を振り上げた。突如手の中に光り輝く弓矢が生み出されるのを見て、私は目を疑った。  ――光の魔法!  まさか、私に向かって攻撃を加える気?  この世界に魔法が存在する事は知っていても、実際に人に向けて使うなんて、ゲームの世界でも、生まれ変わってからの十六年でも、一度たりとも見た事がなかった。  背筋にスッと寒気が走る。  身震いした瞬間、背中が何かに当たるのがわかった。  扉だ。  私は咄嗟に身体を反転させ、体当たりの要領で扉をぶち破ると、無我夢中で外へと飛び出した。 「待てっ! みんな、あの子を捕まえるんだ! 決して逃がすんじゃないぞっ!」  背中に浴びせられる声にも振り返らず、私はまっしぐらに森の中へと走り込んだ。  そのすぐ横を、稲妻のような光の矢が物凄い勢いで追い越していく。二十メートル程先の地面に着弾した矢はズガガンッ! という耳をつんざくような音とともに爆発し、周囲の木をなぎ倒した。  もくもくと爆煙が巻き上がり、周囲に木が燃える焦げ臭い匂いが立ち込める。そのあまりの迫力に、私は愕然とした。  あんなもの食らったら、ひとたまりもない。  振り向けば、矢をつがえた姿勢のアレン。まだ撃ってくる気だ!  私は半狂乱になりながら、必死に駆けた。  根っこに足を取られ、転びそうになりながらも、木の幹や伸びた蔓に手を伸ばし、ただがむしゃらに地面を蹴る。光の魔法の届かない場所を目指して、走り続ける。  心臓がバクバクと激しく鼓動し、肺が破れそうなぐらい苦しくなっても、必死に走り続けた。  頭の中は真っ白で、疑問だけが渦巻いていた。  どうして?  なんでこんな事に?  私はみんなから愛される『恋乙』の正ヒロイン、シャールのはずなのに。
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