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肩の上の方から男の人の声がした。振り向くと、優しそうに微笑むおじさんがいる。深い緑色のエプロンをしており、花屋の店長か店員のようだ。
「きれいな花でしょ?」
「きれい……確かにそうですね」
「まるで牡丹みたいでしょ、濃い桃色で。あっ、この言い方じゃ牡丹なのか桃なのか分かんないね」
おじさんはふるふる笑った。
「まるで牡丹ってことは、牡丹ではないんですか?」
私は牡丹にしか見えない桃色の花を指さした。同じように茎が埋まっていて、土の上に花が咲いている。
「そうなんだよ、牡丹じゃないんだよ。牡丹にそっくりだけどねえ」
「牡丹に似てるお花なんですね」
「それだけじゃないよ。こっちはチューリップではないし、あっちのは薔薇ではないんだ」
「え、そうなんですか?」
「そうだよ、この店には牡丹も薔薇もチューリップも無い。みんなが知ってる花はひとっつも無いよ」
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