アイラブユー

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 食卓に着いた彼女の前に僕のものよりも大きな肉が載った皿を置いてやると、彼女は「ありがとー」とへらへら笑い、そのまま僕が席に着くのも待ち切れずに勢いよく貪り始めた。  そろそろ彼女にもテーブルマナーを教えてやるべきだろうなあとは思うのだけれど、不器用にフォークを握り締め、ガツガツと粗野に僕のこしらえた食事を頬張る彼女を見ているとまあそれは今度でもいいか、という気分になってしまうのだからいただけない。結局僕も彼女のことを人間ではなく愛玩動物として扱っているのだろうか。  とはいえ、この一年と少しで、彼女は信じられないほど急速に、きちんとした“人間”になったと思う。常に怯えた様子でまともに視線も合わせようとはしなかった彼女も、今や僕と卒なく会話をこなすし、冗談だって言い合える。人間らしく拗ねるし、怒って泣いて笑って、時々はひどく落ち込み悲しむ。彼女は人間なのだと、今の彼女を一番近くで見ている僕はきちんと言い切ることができる。  だからこそ僕は、彼女がいつの日かこの世界の「本当」に気づき、僕を憎み始めるのだろうということも充分理解している。  だって、長いあいだ彼女を飼っていたのは僕の知人であり、彼をそそのかした人間こそ僕であるからだ。
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