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 硝子(がらす)(さかずき)が砕け散る甲高い音とともに、少年の体がぐらりと前にのめった。  イレーセルは椅子を蹴り、急いで少年の——この国の王位継承者、ユニスの体を支えようと手を伸ばす。  だが間に合わず、ユニスは色鮮やかな陶器の皿が並べられたテーブルにどさりと上半身を投げ出した。皿の幾枚かが跳ね飛ばされ、床に落ちてひび割れる。 「……あ~あ」  場違いにのんびりした声に、イレーセルは思わずそちらを不審と糾弾をこめて睨みつけた。  視線をまともに浴びたその人物——同じテーブルに着いていたユニスと同じ年頃の少年が、ひゃあ、とこれも危機感のない悲鳴をあげて大袈裟に身を竦ませる。 「やだなぁ、もぉ。そんなコワイ表情(かお)しないでよ。だってそれ、今そいつが割っちゃった杯とかお皿とか、どれも外国のだよ? 高いんだよ?」 「どうだっていい!」  薄っぺらな()(べん)を叩き潰さんばかりの語気でぴしゃりと遮ると、イレーセルはユニスの上に覆いかぶさるようにその肩をつかみ、必死に揺さぶった。 「ユニス……、ユニス! おい、しっかり——」  そこでイレーセルの声が途切れる。  その目に映っていたのは紅い色だった。  ぐったりとうつ伏せる少年の下敷きになった白いテーブルクロスを徐々に染めてゆく、血の色。 「……!」  ぐっ、と腕に力をこめ、ユニスの体を横にする。  線の細い、優しげなその顔が、今は苦しそうに歪み——そして、その口からクロスに広がるものと同じ色が糸を引いて零れている様に、イレーセルは息をのんだ。  弾かれたように再び先程の少年を睨み、叫ぶ。 「カルゼーン! お前、ユニスに何をした!」 「失礼な奴だなぁ。ボクは王子さまなんだよ? 王位継承者、なんだよ。そいつと同じく、ね」  そこで、カルゼーンと呼ばれた少年の目がふいにすっと細められた。 「大体さぁ、キミ何なの? 幼馴染(おさななじみ)だかなんだか知らないけど、そいつのことも呼び捨てだよね。そんでボクまで呼び捨てだしさ。……キミ、そんなに偉いわけ?」  どう返答しようと次の瞬間には斬れと命じるであろうその少年に、しかし(ひる)むことなくイレーセルは口を開く。
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