Ⅰ 武器なき侍者

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「……ウルグ、そのくらいにしてあげて。そろそろ朝食の時間だと思うし」 「おお、そうですな。何はともあれ、まずは腹ごしらえせねば」  (うなず)いたウルグにようやく解放されたイレーセルは、腕をさすりつつ何やらぶつぶつと呪いの言葉らしきものを呟いていたが、腹の虫の音にそれはひとまず棚上げにしてふたりとともに館へと入った。  着替えのためいったん別れて自室に戻ると、頭の後ろで(くく)っていた髪を下ろす。そして手早く稽古着を脱ぎ、白の短衣(チャスカ)とズボンを身につけたところで、次に着るものを見たイレーセルは顔をしかめた。 「これ、重いんだよなあ」  嫌々ながらといった(てい)で、イレーセルはその服——飾り気のない白色の聖衣(カト)を羽織り、留飾りで肩口を留める。  服というより外套(フーレ)のようなその意匠自体には特に文句はないのだが、如何(いかん)せん生地が厚く重いため動きにくい。  膝下(ひざした)まで届く聖衣(カト)の裾を形ばかり整えて鏡を見る。  そこには先程までの闊達(かったつ)な少年の姿はなく、代わりに映っていたのはひとりの若い神官(モレク)だった。  規定(きまり)に従い伸ばされた癖のない(こん)(じき)の髪は背中にかかり、同色の——ただし陽光の下では青紫晶(アピリス)の輝きを宿す瞳は聖職者にしては少々に過ぎる印象だが、全体ではどうにか落ち着いた雰囲気にまとまっている。  外見だけでは、この少年がついさっきまで白手(すで)での格闘稽古をしていたなどとは誰も思わないだろう。  重い()()(うるさ)げにさばいてイレーセルは自室を出た。  いつも朝食が用意されている部屋へと歩いていると、侍女が彼を見つけ今日はテラスに用意したことを(しら)せてくる。礼を言ってテラスへ向かうと、そこでもう席に着いていたウルグが破顔した。 「おお、やっと名前に相応(ふさわ)しい格好になりおったか」 「いちいちうるさいな。その説教くさいところが年寄りだってんだよ」  イレーセルは再び渋面になる。物心ついたときから言われ続けてきたことなので、もはや怒る気にもなれないが(しゃく)(さわ)ることに変わりはない。
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