Ⅰ 武器なき侍者

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「よかった、みんな来てるね」  そこへユニスが姿を見せた。あまり身体を締めつけないゆったりした装いで、皆を見渡して告げる。 「母上ももうすぐ来られるそうだから、少しだけ待ってて——あ、母上」  ユニスの声がふいに弾む。  その視線の先に、一人の女性がいた。  ユニスと同じ銀の髪は品よく結い上げられ、その瞳には優しげな光を(たた)えている。  かつて国一番の美姫と(うた)われたほどに端麗な容姿のその女性こそは、現国王の第一王妃にしてユニスの母である、ミレーネだった。 「ご機嫌よう、皆さん。突然ここにしてごめんなさいね。朝起きたら風があんまり気持ち良くて……それに、ユニスも今日は普通にお食事できそうだったから、なら外でと思ってしまったの」  少し眉を(ひそ)め、まず急な変更を詫びる。相変わらずの気遣いに、臣下を代表してウルグが慌てて打ち消した。 「陛下、滅相(めっそう)もないこと。(たま)には外というのもようございます。さあ、どうぞ、お席に」 「ありがとう、ウルグ」  庭に咲く花たちも(かす)むような柔らかな笑みを零して、ミレーネは優美な所作で席に着く。  国王の第一王妃ミレーネ、その息子にして第一王子のユニス、この街を治める将軍ウルグとその孫娘ティティア、そして王子の侍者(つきびと)であるイレーセル。これが食事のときのいつもの顔触れであった。  が、考えてみれば奇妙な話だった。  常ならば王都ユールヘルンで王とともに在るはずの王妃と王子が、なぜこのような国境近くの街にいるのか——。  それは、侍者(つきびと)ならば武装しているはずのイレーセルが、短剣すら帯びず()()をまとっていることにも関係していた。
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