デート

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   映画は恋愛映画で、一組の男女の出会いから別れまでを丁寧に描いたものだった。  気持ちはあるのに環境のせいで別れを選ばざる得なくなった、そんな切なさが涙を誘うらしい。  映画を観に来ていた大半は女性客で、あちこちからぐすぐすと鼻を啜る音が聞こえた。  そして、隣に座るミモザも御多分に漏れず泣いていた。 「あんな別れ方もあるんだね」  映画を見終わった後、ミモザは感想を口にした。 「なんかやっぱり、恋愛って一筋縄じゃいかないものなんだね。難しいや」  映画館から駅に向かって歩く。洋服屋や飲食店なんかが入ったビルとビルの間をゆっくり歩きながら俺は言った。 「みたいだな」 「みたいだなって、ほんと他人事。自分達と重ねたりしなかったの?」 「自分達?」 「白木さんとのことだよ。うまくやっていけるといいね。すごくいい人そうだし、簡単に手放しちゃダメだよ」  そうだな。って同意すれば、ミモザは満足するんだろう。  でも俺はしなかった。  変わりにミモザに質問した。 「お前は自分と重ねたの? 簡単に諦めたみたいだけど」 「俺は……、そもそもスタート地点にも立てないから、諦める他ないだろ。でももういいんだ。真広兄ちゃんには嫌な思いさせちゃったけど、告白できてよかったって思えるし。これでもう、思い残すことはなにもなくなったし」  晴れ晴れと言うミモザに、足が止まる。  ミモザは振り返った。 「あのさ、この前、お前がお見舞いに来てくれた時、ひどいこと言ってごめん。謝らなきゃって思ってたんだ」  やけにしおらしくミモザは言った。 「あの時はちょっと、メンタルやられてて、情緒不安定になってた。二度と話しかけるななんて言ったくせに、今日はこんな不意打ちみたいなことしてごめん。白木さんのおかげで、やっと言えた。本当はお礼を伝えたかったんだ。クリスマスの夜から今日まで、いろいろあったけど、お前と過ごせて楽しかった。家族でもない、真広兄ちゃんでもない、友達と、気兼ねなく話したり、遊べる日がまた来るなんて、夢みたいだった。俺さ、もうすぐ手術するんだ。だからしばらく学校に行けなくなる。うまく回復できなければ、そのまま学校辞めるかもしれない。だからそうなる前に、お前にちゃんと伝えたかったんだ。ありがとう。俺、三輪に会えてよかった」 「やめろよ」  俺はミモザの腕をつかんだ。  そうしなきゃ今すぐここから消えてしまいそうだと思った。 「やめろよ。なんだよそれ、そんなのまるで……」  だから俺はミモザを引き寄せると抱きしめていた。 「お前、死んじゃうみたいだろ」 「うん、死ぬよ」  ミモザは抵抗しなかった。ただ、当たり前のように言った。
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