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「ここは寒い」
「まあ、人いないし、廊下よりいくらかマシなだけで確かに寒いよね」
ただ寒いというより床から冷気があがってくる感じだ。
教室は人が多いせいであったかいから、余計寒さを感じるのかもしれない。窓の外は曇り空で、昼過ぎだというのにすでに薄暗かった。
「ごちそうさまでした」と、小さな弁当箱の蓋を閉めて手を合わせる、ミモザの指先は微かに震えていた。
その指先に手を伸ばし、俺は両掌で包み込んだ。
「こうすればちょっとはあったかくない?」
ミモザはきょとんとし、勢いよく手を振り払った。
「許可なく触るな」
「許可があれば触っていいの? 俺、体温高いからミモザのことあっためてあげられるよ。なんなら寒さなんて忘れちゃうくらい気持ちよくしてあげるよ」
「変態。許可なんか一生出すもんか。お前のことなんか大嫌いだ」
「でも、話してくれるし、こうして一緒に飯食ってくれてるんだ」
「お前がしつこいからだ。変に悪目立ちしたくないから、こうして仕方なく付き合ってやってる」
「うん。だから俺も親身に寄り添ってるよ。ミモザの恋が叶いますようにって思ってる」
にっこり笑って言ってみた。
頬を赤くしたミモザは口をへの字に曲げた。
「俺は、図書室に行く」
食べ終えた弁当箱を手にミモザはそれだけ言って教室を出て行った。
昼飯は食べてくれる。でも、別に昼休みをずっと一緒に過ごしてくれるわけじゃない。
寒がりだから、暖房の効いた図書室に行きたいのは本当なんだろう。ミモザが本好きなことも知ってる。だから俺は引き留めたりしない。
ミモザの恋を応援すると銘打って、話を聞き出したのは一緒に弁当を食べるようになってからのことだった。
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