灯油ストーブを焚いて

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「それってもしかして、家に一人で寂しくないのかって話?」 「そうだけど」 「あー、なるほどね。ミモザは毎日家族と顔合わせる感じなの?」 「うん。父さんは帰りが遅いことがあるけど、母さんとは毎日一緒に夕ご飯食べてる」 「ふぅん」  ミモザが毎日母親と夕飯を囲んでいて、父親も時間が合えば三人で食べている姿を思い浮かべる。  弁当を見てても思ってたけど、きっとミモザは両親に大切にされているのだろう。  だからスレもせず素直に……、いや素直すぎて発言ヤバめだけど、正直者に育ったのだろうと俺は思った。  俺はコロッケパンを食べ終えてから言った。 「別に寂しくはないな。もう慣れたし、気楽なもんだよ。それこそ、連れ込み放題やり放題だから、家に来ない?」  軽く言うとミモザは目を半分にした。 「そればっかり。お前、どんだけ欲求不満なの。彼女いるんだから、彼女とすればいいだろ」 「彼女?」 「クリスマスの日にデートしてた子だよ」 「いや別に、それ彼女じゃないし」 「彼女でもない子とわざわざクリスマスにデートするのか?」 「まあ。っていうか、デートじゃないんだよ。正確に言えば、買い物に付き合わされて、ついでだから夕飯でも食って帰ろうってなっただけ。ただの友達」  ミモザはなんだそれ。という顔をする。  俺は肩をすくめた。 「ミモザさんさ、男女が歩いてたらみんなカップルって決めつけるのは、ちょっと端的すぎると思うよ」 「だって、クリスマスだぞ」 「たまたまクリスマスだっただけだろ。ま、そんだけウブってことなんだろうけど」 「バカにするな」 「バカにはしてないけど、まあ、かわいいなぁとは思うかな」  俺は油揚げとネギの味噌汁を飲み干した。 「かわいいかわいいうるさい。だいたいお前、なんなんだよ。俺とやりたいって、そればっか。お前みたいなヤンキーなら、相手になってくれる人たくさんいるだろ」 「んー、いるかもしれないけどでも、俺はミモザとやりたいんだよね」 「なんで? ゲイなの?」 「ゲイじゃないけど、ミモザかわいいし、エロいし、気持ちよかったし。ミモザも気持ちよくなかった?」  俺はミモザに手を伸ばすと、その白い頬に触れた。  ストーブのおかげか、食べているせいか、ミモザの頬はほんのりあったかい。すべすべとした感触が心地よくて揉んでいると、ミモザはかっと赤くなった。 「さっ、触るな。許可なく触るなって言っただろ!」  俺の手を振り払うと、ミモザは食べかけの弁当に蓋をして立ち上がった。 「気持ちよくなんてなかった。あんなの、あんなの、もう絶対しない」  ミモザはぎゅっと眉根を寄せ教室を出て行く。  俺はミモザに振り払われた手を後頭部に回して言った。 「あー、肝心な話すんの忘れてたわ」  俺は机に突っ伏すと、顔を窓の方に向けて溜息を吐き出した。
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