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LINEと再びの情事
ストーブの火があったかい。ヤカンの白い湯気がしゅんしゅん音を立てる。
ミモザは今日も小さいのに彩り豊かな弁当を広げ、少しずつ口に運んでいく。
俺は鮭おにぎりを食べながら、コンビニで買っておいたからあげくんをつまんだ。
「真広兄ちゃんのことだけど、やっぱり本人に確認するのが一番早いと思ったんだ」
俺が切り出すとミモザは伏せていた目をあげた。
「昨日、本当はこの話しようと思ってたんだよね。ミモザが怒って帰らなきゃ」
「それは、お前が悪いんだろ」
「エッチしようって誘うの、そんなにダメかね」
「他に言い方ないのかよ」
「抱かせてください? セックスいたしましょう?」
「丁寧に言たっだけで変わらない!」
ミモザのボルテージが上がっていく。
まずい、このままじゃ昨日の二の舞になる。
俺は話題を戻した。
「真広兄ちゃんだけど、LINEかなんかで聞いてみたら? クリスマスの夜、ミモザが酔っ払ったあと、なにかあったか」
「真広、兄ちゃんに?」
真広兄ちゃんの名前が出た途端にミモザはしおらしくなる。
俺はわかめと豆腐の味噌汁を啜ってから言った。
「その方が手っ取り早いだろ。まあ、真広兄ちゃんが、どこまで本当のことを教えてくれるかは分からないけど。それこそ、ミモザに告白されて頼まれたから抱いたよ、ってあっさり伝えてくれるようなノリのいい人だったらいいんだけど」
「真広兄ちゃんはそんな、頭軽そうな話し方はしない」
「うるさいよ」
「お前のことだとは言ってない」
「絶対俺のことだろ。いいじゃん。俺は直球勝負なの。回りくどいのなんてめんどいし、相手に伝わってこそ意味があると思う」
「ただ伝わればそれでいいってものじゃないだろ」
ミモザは静かな口調で言った。
「真広兄ちゃんは、ちゃんと相手の立場に立って考える人だから、例えなにかがあったとしても、本当のことは教えてくれないと思う」
「でも、教えてもらわなきゃなにも分からないままじゃん」
「分からないままで、いいのかもしれない」
「は? なんで? 真広兄ちゃんに抱かれてたって分かれば、ミモザは喜べるじゃん」
「どうだろう」
「なに? うれしくないの?」
「だって、無理して酒を飲んで酔っ払って、あげく好きだなんて告白されても、そんな告白本当かよって、ふつうなら思う。ましてや、抱いてなんて、冗談にしか聞こえない。男同士だし、真広兄ちゃんはずっと、俺の本当のお兄ちゃんみたいに接してくれてたから。俺を抱くどころか、気味悪がってたかもしれない」
ミモザは自嘲気味に笑みを浮かべた。
「んー、とりあえずスマホ貸して」
「え?」
「スマホ。持ってるでしょ」
ミモザは戸惑うような顔をしたが、制服のポケットから取りだしたスマホを素直に手渡した。顔認証でスマホのロックを解除すると、俺はLINEを開いてその中から真広兄ちゃんを見つけた。
「なに、してるの?」
ミモザが聞いてくるので、さささっと文字を入力して送信ボタンをタッチする。
「ここでうだうだやっててもなにも進展しないから、真広兄ちゃんにLINEしたよ。クリスマスの夜、なにかあった? って」
「は? お前、なに勝手なこと……」
「ついでに、俺のLINEも登録しとくね」
俺は自分のスマホを取り出すとミモザのQRコードを読み込んで、友達に登録した。
「返せ。なんでそんな、勝手なことするんだよ」
ミモザは立ち上がると俺の手からスマホを取ろうとした。
その手を避けるとミモザはよろめいて俺の胸に飛び込んでくる。
ミモザを抱き留めると、すぐ近くで目が合った。
見つめ合っていた時間はほんの何秒か。
多分、二秒か、三秒か、それでもやけに長く感じた。
ミモザがかっと頬を染めるもんだから、俺はその唇にキスをした。
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