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謝罪と提案。
それでもミモザに逃げ切られたりしないのは、単純にミモザの足が遅いからだった。
細い見た目通り、体力がないらしい。
すぐに息があがるし、顔を真っ赤にする。
ぜえぜえしながら追いついた俺を迎える姿勢は、さながら怒って毛を逆立てる猫を思わせた。
シャー、という感じか。成猫というよりは子猫っぽいので全然恐くないけど。
俺は溜息を吐き出して言った。
「いや、これ以上しつこくしたくないから、話聞いてくんない」
昼休み時、俺達は人気の少ない踊り場で向かい合っていた。
「お前の話なんて聞きたくない。声も聞きたくないし、顔を見るのもいやだ。目障りだから早く消えて」
「うぜー……」
「なに?」
おっと、心の声が正直に出てしまった。
「いや、お前、なんでその外見でそんなに口悪いの」
「外見なんか知らない。俺は元々こういう性格だ」
「ちょっとは気をつけようって思わないの?」
「なんでお前相手に気をつけなきゃいけないんだよ」
「ああ、俺だからですか」
「決まってる」
嫌われたもんだ。
いや、自業自得なんだけど。
「ええと、聞きたくないかもしんないけど、聞いてほしい。クリスマスの時のこと、ずっと謝りたかったんだ。あんなことして、ごめん」
ミモザは眉間に寄せていたシワをさらに深めた。
「謝れば済む問題だって、本気で思ってるならちゃんちゃらおかしい」
「いや、謝っても済まないことをした自覚はあるよ。でもまずは謝罪させて」
「いくら謝罪されたって俺はお前を許さない。なんでお前なんかに、あんなことされなきゃいけなかったのか、今でも全然分からないし」
「それは、売り言葉に買い言葉で、つい……」
「はあ? まさか俺のせいにする気?」
「いや、いや違う。俺が、うん、悪かったんだ。いくらミモザがエロくても、我慢するべきだったわ」
「別に俺はエロくない!」
「自覚ないだけだろ」
自覚は本当にないのだろう。
なんならその言動と見た目があってないことすら無自覚なのかもしれない。戸惑っているミモザに俺は言ってやった。
「ミモザはエロかわいいよ」
「ふざけんな!」
顔を赤くして叫ぶとつっかかってくる。
だけど、俺の胸を打つ拳は軽い。あまりにも軽いから簡単にあしらえた。
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