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夢の続きを歩いていく
夏休みと言っても高校三年生の夏休みなんてないに等しい。
大学受験に向けて俺も予備校に通う日々が続いていた。
そんな勉強の合間を縫ってミモザと会っていたのだが、お盆休みに入る頃ミモザは俺の家に泊まりに来ることになった。
ミモザの住むマンションとうちは意外と近く、自転車を10分ほど走らせれば到着する位置にある。
お盆なのにうちの両親は出張で帰ってこないと話すと、「じゃあ、泊まりに行ってもいい?」とミモザに尋ねられたのは先週のこと。
俺は「いいよ」と軽く返したが、内心どきりとした。
実のところ、ミモザが退院して学校に復帰してからも、まだそういう行為をしていない。
キスしたり、ハグしたり、ちょっと触ったりくらはしたが、それだけだ。
自宅の居間のソファでごろごろしながら思う。
そりゃあ、したくないわけじゃない。
ミモザで抜いたりするくらいにはしたい。でも、ミモザの身体のことを考えると、無理強いはできなくて踏みとどまってしまう。
「あんなにやりまくってたのが嘘みたいだな」
はははと乾いた笑いが出た。
だめだ。想像したらムラムラしてくる。
壁にかけてある時計は夕方の六時を指そうとしていた。
そろそろミモザが来る頃だ。余計なことは考えないようにしようと思っていると、玄関のチャイムが鳴った。
「なにこれ、すげー」
ミモザが風呂敷で包んだやけにでかいお重箱を持ってきたかと思えば、中身はたくさんのおかずと、おにぎりと巻き寿司とおいなりさんが入っていた。
「母さんが、せっかくだから二人で食べなさいって。いらないって言ったんだけど、勝手に作ってて。持たされた」
「えー? すごいじゃん。ミモザのお母さん料理上手だとは思ってたけど、ほんとすごいな。どれもこれもうまそう」
俺はさっそく食器棚から小皿やコップや箸を取りだして食べる準備をする。
「迷惑じゃ、なかった?」
ミモザはそんなことを聞いてくる。
「え? なんで迷惑なの? うれしいじゃん。夕飯は出前かなんか取ろうかなっ考えてたとこに、手作りのごはんだよ。そうそう食べられないし。大歓迎だよ」
「そ、そう? ならよかった」
「俺さっそく食べたいんだけど、ミモザ腹減ってる?」
「うん、まあ」
「じゃあ、少しずつつまもう。いただきます」
麦茶をコップに注いで俺は両手を合わせた。
気まずそうにしていたミモザは呆気にとられた様子で、結局一緒に手を合わせた。
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