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ミモザはためらうように言った。
「俺のことがあったから、その道を選んだとしたら、やっぱり心苦しい。三輪、他に興味があること、あったんじゃないの。だったら今からでもそっちに進むべきだよ」
「いやないし。ないって言ったじゃん。俺、進路のことなんか特別なんも考えてなかったから。どっかの大学行って、どっかの企業に就職して、気ままに生きていくんだろうなって、ぼんやり思ってたくらい。明確なものなんてなんもなかったから、こうして定まって、むしろよかった。うちの親も予想外だったらしくてびっくりしてたけど、あんたにしては堅実な道ねってよろこんでたし」
「本当に?」
「ほんとーに」
俺はミモザの頬を掌で撫でた。
「ミモザって口ではずけずけ物言うくせに、いざとなると怖じ気づくっていうか、変なとこで気を使うっていうか、そういうとこあるよね。でもさ、俺はこの先もミモザと一緒にいたいし、そのためにできることならなんでもやりたいだけだから、あんま心配しないで」
ミモザはまだ迷うように瞳を揺らしていたが、その目を伏せると頷いた。
だから俺はその唇についばむように軽く触れて、舌でミモザの口の中を味わった。
キスするだけで体温があがってしまうのは、もうずっとミモザと肌を合わせていないからだろう。
「ミモザ、あのさ……」
唇を離すとミモザの黒い瞳はすでに甘く潤んでいた。
頭の隅でちりちりと火花が散る。
「今日はその、しても大丈夫? 体調とか、具合とかは……」
「平気」
ミモザはぎゅっとしがみついてきた。
「しても大丈夫。したい。俺、三輪としたい」
お互いの固くなった部分が服越しに擦れる。
このままミモザを裸にして勢いのまま突っ込みそうになるのを堪えて、俺は言った。
「ええと、それじゃあ、とりあえず、汗かいたし、先に風呂入るか」
「分かった」
ミモザは言うが早いか俺から離れた。
「先に入ってもいい?」
ソファから立ち上がってミモザが尋ねるので、俺は「うん」と頷いて風呂場に案内して、使い方を教えた。
着替えを用意していると、やがてシャワーの音が聞こえてきた。
一緒に入る? なんて言葉が喉のすぐそばまで出かかって飲み込んだ。
落ち着こう。一旦落ち着こう。
俺は自分の部屋に戻るとエアコンをつけてベッドを整え、念のために買っていたゴムとローションを手の届く場所に用意し、ミモザが来る前にかけた消臭剤をもう一度念入りに噴射させた。
その他、部屋におかしなところがないかチェックしているうちに、ミモザが風呂からあがってきたので、俺もシャワーを浴びた。
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