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ツンツンくんとランチ
「ねぇ、なつめ、今日もあのツンツンくんとお昼食べるの? たまには一緒に食べようよ」
「ああ、ごめん。俺、ミモザと約束してるから」
昼休み前に、俺の腕をくいくい引いたのは女友達の白木光だった。
ミモザの言う、ヤンキー集団の一人だ。
いや、全然ヤンキーじゃないんだけど。
光だって、セミロングの髪をミルキーブラウンに染めて薄く化粧はしてるけど、酒もタバコもしない。友達思いの明るくて優しい子だ。
口の悪さで言えば、ミモザの方がヤンキーめいているとさえ思う。
俺以外の連中にもミモザの態度は一貫しているせいで、ツンツンくんなどと呼ばれているから笑ってしまう。
「えー? じゃあ、ツンツンくんも一緒に私達と食べたらいいよ。大歓迎だよ」
「いやー、あいつああ見えて、実はめちゃくちゃ人見知りだから」
「そうなの? でも、なつめが一緒なら大丈夫なんじゃない?」
「うーん、じゃあ、一応話だけしてみるわ」
「うん、そうしてそうして。じゃ、またね」
「おう、また」
そして今、空いている教室で弁当をつつくミモザは即答した。
「絶対やだ」
「ですよねー」
この反応は予想通りだ。
ヤンキー集団と呼んで嫌煙してるような人間にミモザが近づくはずがない。小さな弁当箱からちびちび中身を口に運ぶミモザは今日もご機嫌斜めだ。
その理由もよく分かってる。
俺が一緒だからだ。
俺がミモザに謝罪した日から一週間が過ぎていた。
俺を殴って罵倒して逃げたはずのミモザが、どうして今こうして昼飯を食べてくれているのか。
単純に俺があの日以降もミモザに積極的に話しかけたからだ。
「おはよう」から「また明日」まで、俺は後ろの席のミモザに声をかけまくった。
ミモザは始終無視を貫いていたが、日を追うごとにさすがに耐えきれなくなったらしい。
「うるさい、いい加減にしろ!」と、キレた。
その日以来、ミモザは返事をしてくれるようになって、お昼まで一緒に食べてくれるようになった。
俺の努力の賜物である。
ただ、その愛らしい顔は不満を貼り付けっぱなしで、にこりともしなかったけど。
「今日寒いよね。なんか雪降るかもって天気予報で言ってたし」
俺はさっさと話題を変えることにした。いや、天気の話ってマジで万能だな。当たり障りなく話せちゃう。
「お前それ、今朝も言ってた。雪が降ったら雪合戦して雪だるま作ろうとかなんとか。寒いし絶対やらないから」
「ああ、そうだっけ? にしてもミモザほんと寒がりな」
ミモザは室内だというのにブレザーの制服の上から黒のダッフルコートを着て、深緑色のマフラーまでぐるぐるに巻いていた。
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