旧式

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 二十歳の誕生日前日、私は朝からずっと落ち着きがなかった。本来ならば一週間前には届いているはずの葉書きが、いまだ私の手元にない。明日から私に与えられる私の役割とはいったい何なのだろう。できるだけ早く知り、心構えをしておきたかったというのに。  この十九年と三百六十四日間、私はどれほど小さなことでも用意周到に準備を行ってきて、だからこそ些細なミスも欠損も何一つ許せなかった。我ながら頭の固い女だと思う。案の定小中高大、と今までずっと恋人なんていなかったし、心許せる友人もいない。  家族は皆優しいが、しかし私は彼らが言う「ほどほど」がどうしても許容できずにいた。彼らも「ほどほど」であることを役割として与えられているのだから仕方ないとは思うのだけれど。  父も母も姉も、国から『だらしなく適当で大雑把』という趣旨の役割を与えられている。  父や母が二十歳までどういう人間だったのか詳しくは知らないが、少なくとも姉は二十歳になるまで、私よりも頑固で融通が利かず、こだわりも多ければ自分にも他人にも厳しい人だった。  十九歳と三百五十八日目の夕方、自宅に届けられた葉書きを見たときの姉の落胆を私は今でもはっきりと覚えている。そしてそのとき母が、 「まあ、でも仕方ないじゃない? だって役割なんだし。それにこれからはずーっと、でれーっとして、ぼけーっとして、楽に生きていけるんだしさ! 前々から思ってたけど、お姉ちゃんはねえ、頑張りすぎ! もっとほどほどに、ラフにいこうよ! ラフに、ラフに。ラッフッにぃー? ふふふー!」  へらへらと馬鹿みたいに笑っていたことも。  姉が母を明確な憎しみを持って睨みつけていたことも。
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