旧式

5/5

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 一次会が終了し、同僚は「明日は用事があるので」とだけ言い残すとヒールを鳴らして家路についた。  私はべたべたと身体に触れてくる先輩に、やあだ、もうー、くすぐったいですってばー、といかにも頭の悪そうな返しをしながら、どうして私と同僚の役割が反対ではなかったのかと一方的に彼女を羨んでしまっていることに気がついていた。  本来の私は、同僚のような女だったのだ。二十歳までの私は誰にも媚びず、馬鹿な人間は全て拒絶し、断罪し、自身に妥協など一切許さず、ひたすら自分自身を高めて生きてきた。  もちろん役割そのものを否定するつもりはない。役割がなければ自身の身の振り方を判断することすらできず、自身の感情を持て余し、何者にもなれずに死んでいく人間に満ちた世界は腐ってしまうだろう。そもそも役割とはそういう人間の救済として誕生したシステムなのだ。だから私は役割をなくせなどとは思わない。  ただ、どのような形であれ、この世界を虚しいと思う。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加