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1 はじまりはハワカンのすんげえ話
貨物輸送船ユリシーズ728便のフロントパネルに、小さな赤い点が宇宙の暗闇に灯台のように浮かんでいる。
パイロットのノディグは、目的地であるその赤い点、火星をぼんやりと見ながら、そう広くはないシートに体を押し込むように座っていた。
その隣では、コーパイのチェノアが、タブレットを黙々と叩いている。
その音を聞きながら、ノディグは考えていた。
さっきの、あの不可思議な出来事。
いったい、俺たちに何が起きた。
記憶が確かなうちに、と言って、チェノアは今それを文章に起こしている。
それを社に報告するかどうかは、別として。
同じ経験をしたステラジーノ社のクルーだって、一度出した報告書を取り下げた。
理由は何だったか。
ただの、勘違い、誰かが見た夢、酔い止め薬の過剰摂取、クルーが書いていた空想小説を間違って。
とにかく彼らは、見なかったことにした。
俺たちは、どうする。
タブレットを叩く音が止んだ。
「だいたいこんなところでしょうか。ノディグ、見てもらっても?」
チェノアが小さなタブレットをノディグに差し出した。
「早いね。ありがと」
これを読みながら今まで起こったことを頭の中で整理して、それからどうするか考えよう。
ノディグはタブレットを受け取った。
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