1 はじまりはハワカンのすんげえ話

2/4
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/109ページ
 今から3週間ほど前。  728便は、予定通り順調に、タイタンから火星行きの航路をゆっくりと進んでいた。  太陽フレアやCMEの予報もなく、オートパイロットで特にすることもなく、ノディグはタブレットの本を読み、チェノアは仮眠室に引っ込んでうとうとと眠っていた。  突然、その静寂を切り裂いて、3億キロの彼方から太陽がはじけたような賑やかな声が響いた。 「おーい、ノディグ、チェノア! 起きてるか!」 「よう、ハワカン。俺は起きてるけど、チェノアは寝てる」  ノディグの声は、たった今船を出発したばかりだ。ハワカンに届くには15分以上かかる。ハワカンもそれが分かっているから、一方通行でまくしたてる。 「すんげえ話、するぞ」 「どうせ出所不明の話だろ? 聞きたくない。今、本読んでんだ」 「お前のことだから、ゴシップまがいの話なら聞きたくないとか言ってんだろ。いいから聞けよ!」 「ちょうど推理小説の犯人がわかるページに差しかかってんだよ。それを途中にしてもいいくらいすんげえ話だろうな」  チェノアが起きてきた。「ハワカン、おはよう。あなたに起こされました」 「ステラジーノ社のクルーがさ、変な体験したんだってよ。でも、報告書、すぐ取り下げたって」 「へえ」 「それがさ……」
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!