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ザルタナはディスプレイから顔をあげ、今日の午後を思い返した。
白い部屋から出てきたノディグとお互い軽く会釈したあと、彼から「あの」と声をかけられた。
「何か」
「昨日は失礼な態度を。申し訳ありません」
何を言われるかと身構えていたから、思わず笑顔になった。「いえ。こちらこそ」
「アシュリンをよろしくお願いします」
そう言われて、今度は違和感が心をかすめた。
私たちはあの子の病気を治療しているわけじゃない。あの子を調査・研究しているのよ。
目の前の男にやんわりとそれを告げた。
「エッカートさん、私たちまだ、彼女についていろいろ調べてはいるんですが、まだ何も手掛かりがないの」
「そうですか」
彼はうつむいた。「助けてあげたいんですけどね」
助けたい。この言葉を聞くのは今日が初めてではないな、と思った。
「午前中、ギャロウェイさんが見えて……同じこと、おっしゃってました」
彼の顔が上がった。「そう……ですか」
「また、アシュリンのところに、ぜひ」
彼は、ありがとうございます、ではまた明日、と帰っていった。
ザルタナは机の上のコンソールを叩き、行政庁から受け取ったマル秘、のファイルを開いてみる。
ディスプレイに今日会った二人が映し出される。
「ノディグ・エッカート 31歳 ユリシーズ社1級パイロット 住所……」
「チェノア・ギャロウェイ 27歳 ユリシーズ社2級パイロット 住所……」
ザルタナは、やっぱり「科学的」にはわからないけれど、「なんとなく」なら、アシュリンが二人の船に現れた理由が分かる気がした。
彼女の10歳の娘ニーナが、宇宙で独りぼっちのところを想像する。そこへ、この二人が現れて、助けてあげたい、と言う。
温かそうな光の中に、強さが隠れているような、グリーンの目をした男。
強そうな光の中に、温かさが隠れているような、ヘイゼルの目をした女。
ザルタナは思わず独り言を口にした。「そりゃ、ついてくでしょ」
彼女はアシュリンの調査チームのリーダーになってからずっと、着地点はどこにあるんだろう、と感じていた。
何が知りたくて、何を解決したくて、私たちはあの子を調べているんだろう。
茫漠としていて、どこか後ろめたさすら感じていたこの役割に、彼女はやっと目的を見つけることができたように感じた。
あの子を調べるのは、あの子を助けるため。
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